2018/03/29
取材で長野県を訪れたのは9月中旬。空気が夏から秋へと変わっていくのを感じられるこの時期、サンパチェンスは最高のパフォーマンスで迎えてくれました。
サンパチェンスの鮮やかな花色と暑さにも強い性質は世界中で愛され栽培されています。今回は日々品種開発に取り組んでいるブリーダーに「サンパチェンス」について話を聞きました。
品種開発担当者のこと。新しい品種を開発するのがブリーダーの仕事です。開発する品種の目標に合った親の選抜を行います。優れた品種を生み出すために、選抜した親同士を組み合わせます。そのため、1年間で交配する組み合わせの数は数百にも及びます。
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サカタのタネ
佐藤 智博(さとう ちひろ)
―― サンパチェンス最大の魅力はどんなところでしょうか。
佐藤
やっぱり色鮮やかな花が春から晩秋にかけて咲き続けることですね。ピンチや花がら摘みをしなくてもきれいな形で大きくなってくれるところもいいな、と思います。
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―― 育種の上での苦労や大変なことはどんなことですか。
佐藤
複雑な組み合わせで作っている育種なので、なかなか思ったとおりの色を出せません。例えば赤色を作りたい場合、他の植物の育種では赤い花の親同士をかけて赤い品種を作ったりしますが、サンパチェンスの場合、かけ合わせる色は一工夫が必要です。
また、「暑さに強い」サンパチェンスですから、当然われわれも暑い時期に選抜、調査をしなければならないので、選抜時は汗だくです(笑)。直射日光を浴びながら、日々体力勝負ですね。
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―― 育種は、「こういう色を作りたい」という目標を立てて進めているのですね。
どのぐらいの割合で狙った色が出ますか?
佐藤
オレンジは8、9割うまくいきます。赤は、色はよくても性質がよくないことも多いですね。色と性質を兼ね備えた赤が得られる確率は、数百分の一程度でしょうか。
―― 「ピンクキス」は中心に赤が入るのが特徴です。
佐藤
正直、中心の赤は偶然の産物です。サンパチェンスの育種では赤、パープルなどの濃い色を狙った組み合わせが多いのですが、たまに薄い色も出てくるんです。その中で性質のよいものが、現在のラインアップにない色ということもあって商品化されたのでしょう。
―― 一番のお気に入りはなんですか。
佐藤
新色の「オーキッド」です。花付きがよく、株の形もきれいにまとまります。涼しげな花色は夏にぴったりですのでぜひ育ててみてほしいです。
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新色のオーキッド
―― 「ブリーダーをやっていてよかったな」と思うことなど、サンパチェンスにまつわるエピソードを教えてください。
佐藤
もちろん売り上げアップだったり、お客さまからの評価は大きなモチベーションです。ひとつ身近な話をしていいですか?ここ長野県はサンパチェンスを植えてくださっている方が多く、植栽イベントも行われているんです。子どもたちと散歩中に、見事に咲いているサンパチェンスを見て「これお父さんが作った品種なんだよ」という会話をしたことがあるのですが、そのようなときにはやりがいを感じますね。子どもは5歳と3歳なので、まだ詳しいことは理解できなくて「この花をお父さんが育てたの?」ぐらいに思っていましたね。「この品種を育種したんだよ」と伝えたかったのですけれど(苦笑)。いつか理解してくれるといいです。
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―― 最後に『園芸通信』の読者の方へメッセージをお願いします。
佐藤
サンパチェンスは大きくなりますし、花もたくさん咲きます。うまく栽培できると近所の評判になり、近所の方に「この植物なんですか?すごくきれいですね」と言われることが多いと思います。そういう意味ではコミュニケーションツールのひとつなのかなと感じます。花を栽培する方は人に見てもらうこともモチベーションになると思いますので、ぜひうまく育ててみてください。
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