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新しい品種を開発するのがブリーダーの仕事です。どのような品種を作るか、まず目標に合った親の選抜を行います。次に優れた品種を生み出すために、選抜した親同士を組み合わせます。そのため、1年間で交配する組み合わせの数は数百にも及びます。
サカタのタネ 掛川総合研究センター
若槻 昭仁(わかつき あきひと)
ブロッコリーの原産地は、地中海沿岸のため、カラッとして雨が少ない気候です。また、土は石灰質のためアルカリ性で通気・通水性がよく、本来は根張りが強くなくてもよく育ちます。一方で日本は、高温多湿で水分を多く含んだ、重い酸性の土です。そのため、日本でブロッコリーを育てるには、強い根張りや草勢に改良する必要がありました。
また、日本においてブロッコリーは、気候に左右されやすく、計画通りに植えても思った通りに収穫しにくい作物です。それを少しでも減らしたいと思いました。
「Myドーム」シリーズの品種の育成は「強い根張りと草勢」「どの時期も肥大力があり、高品質の花蕾を収穫できる」の2点を解決することを目標に育種を開始しました。
当社がブロッコリーの育種を始めたのが1960年代です。その後、歴代のブリーダーがバトンをつないで、歴史の積み重ねの中で生まれたのが「Myドーム」シリーズです。F1品種の育成には、掛け合わせる両親が必要ですが、特に「グランドーム」用の根張りが強く、品質もよい親づくりは相当苦労したと聞いています。
なぜ、そんなに苦労したのかというと、もともと原産地では根張りが強くなくてもよく育つ、そんなブロッコリーから、根張りの強い形質を見つけ出すということが大変でした。それぞれの片親が完成した時代に差はありますが、私が入社した2000年ごろになんとか親づくりが完成し、それを掛け合わせて品種を育成し、商品化するまでトータル10年以上かかりました。
海外では、一年中同じ品種で作ることがあるのですが、日本は四季がはっきりしていて、寒い時期から暑い時期まで、一つの品種でカバーするのは不可能です。
そのため、暑い時には暑さに強い品種、寒い時には寒さに強い品種を使い分けるために「Myドーム」シリーズがあります。
私たちブリーダーは、何度も試験をして作型図を作っています。例えば、例年より残暑が厳しい年の場合、ほんの少しまき時を後ろにずらす程度ならよいですが、推奨時期から完全にはみ出すと、うまく育つ確率が格段に下がります。どの品種も作型を守らないとその品種の特性が生かされません。まずは、各品種の作型図を確認して、種のまき時を守るようにしてください。
まず「Myドーム」シリーズに共通することは、草勢と吸肥力の強さ、わき芽が出にくい頂花蕾品種ということです。「Myドーム」シリーズの中で家庭菜園向きの品種は「グランドーム」「ウインタードーム」「サマードーム」の三つです。まき時期と収穫時期が異なるので、季節によって使い分けてください。
食べ応え抜群で目を引く圧倒的な大きさ!「グランドーム」
収穫時期※:11月下旬~12月
「グランドーム」は根張りがよく、他の「Myドーム」シリーズと比べても特に肥大力に優れ、肥料を減らした栽培でもしっかりした花蕾が収穫できます。例えば、水田の後作のような畑でも栽培が可能です。湿害を受けて、他のブロッコリーの品種では育たない畑でも「グランドーム」ならすくすく育ちます。
通常、ブロッコリーの花蕾は大きく収穫しようとすると、花蕾がばらけてきて、品質が悪くなります。しかし「グランドーム」なら、プロに負けない驚きの大きさのブロッコリーが、ドーム形状のままで収穫できます。
アントシアンや「べと病」が出にくい!寒くても高品質「ウインタードーム」
収穫時期※:12月下旬~2月
「ウインタードーム」は1~2月の厳寒期に花蕾に出る「べと病(俗称:組織内べと)」に強く、アントシアン(紫色)が出にくいタイプです。
アントシアンがまったく出ない品種は、極端な低温などのストレスを受けると花蕾が黄緑色になり、おいしくなさそうな見た目になる「しらけ」という症状が出やすいデメリットがあります。「しらけ」が出てしまうと調理をしても見た目が悪いままです。
一方で、アントシアンが出てしまった紫色の花蕾は、火を通せば鮮やかな緑になりますが、収穫する時からなるべく緑でおいしそうな花蕾にしたいと思いました。
「ウインタードーム」は、花蕾を包むように芯の葉が立ち、寒さから守ることで、アントシアンの発生が極力少なくなるようにしています。また、温度適応性が高いので、暖冬でも高品質なブロッコリーが収穫できます。
夏の暑さにとにかく強い!「サマードーム」
収穫時期※:10月中旬~11月中旬
「ブロッコリーは本来、秋から冬に収穫する作物なので、春や夏は苦手です。当社には「ピクセル」という暑さに強い初夏どり品種がありますが「サマードーム」はさらに暑さに強く草勢が強い、馬力がある品種です。根が強いので、湿害にも比較的強いです。また、花蕾の色が鮮やかで日持ちがよく、しなびにくいのも特長です。
※各品種のまき時期・収穫時期は関東(温暖地)基準です。
ブロッコリーは、一般的に春や夏に収穫する品種向けの親選びと種の生産が難しいです。初夏から夏にかけて花が咲くため、その時期に気温が高過ぎたり、梅雨入りしてしまったり、悪条件が重なると種が付きにくい難しさがあります。そういった悪条件の作型に合う品種の開発はどうしても遅くなってしまいます。
「Myドーム」シリーズも含めブロッコリー全体の話になりますが、やはり病気や生理障害への強さが重要です。なぜなら、作りやすさの中に病気や生理障害への強さが占める割合が大きいと思うので、今後もそこに力を入れて新品種を作っていきたいです。
スーパーでブロッコリーを見かけると、必ず産地を確認して、生理障害や病気が出ていないかまじまじと見てしまいます。また、ちゃんと締まっていて硬いかな?と無性に花蕾を触って確認したくなりますね。
「Myドーム」シリーズは、草勢が強くて作りやすいのが特長です。スーパーでは手に入らないような大きな花蕾を作って、収穫の喜びを感じてもらいたいです。
収穫期に暑くもなく寒くもない、一般地の7月中旬~8月中旬ころに種をまき、ブロッコリーの旬に当たる11~12月に収穫する作型が一番育てやすいです。まずは、栽培しやすい作型の「グランドーム」から始めて「ウインタードーム」にステップアップしていただければと思います。
「サマードーム」の作型は、高温で病害虫が多い時期なのでプロでも難易度が高いです。寒い時期の栽培をマスターして、暑い時期も頑張ってみたいという方は、ぜひ挑戦してみてください。
また、当社のブロッコリーには「あいさつ」シリーズもありますが、家庭菜園では「Myドーム」シリーズの方が育てやすいです。
ブロッコリーの収穫を楽しむ
「Myドーム」シリーズは、それぞれ種まき適期と収穫期が異なるので、3品種をうまく組み合わせれば、長期間にわたりブロッコリーの収穫が楽しめます。
「サマードーム」→「グランドーム」→「ウインタードーム」をリレー式に栽培することで、10月から翌年2月まで収穫が可能になります。難易度は高いですが、挑戦してみてください。
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「サマードーム」
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「グランドーム」
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「ウインタードーム」
アブラナ科の野菜を連作すると「根こぶ病」だけでなく、細菌により葉や花蕾に腐りが出る「黒腐(くろぐされ)病」、カビにより葉や花蕾に腐りが出る「黒すす病」「べと病」などにかかりやすくなります。
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黒腐病
上:葉に発生した様子
下:花蕾に発生した様子 -
黒すす病
上:葉に発生した様子
下:花蕾に発生した様子 -
べと病
上:育苗時、子葉表面に発生した様子
下:花蕾内部に発生した様子(俗称:組織内べと)
病気の連鎖を断ち切るには、アブラナ科を連作しないことがとても大切です。
特に「根こぶ病」は、耕運機の移動により、別の畑も汚染されてしまうことがあります。「根こぶ病」に汚染された畑で耕運機を使用したら、しっかり洗ってから次の畑で使用してください。
畝幅60cmで株間が40cmくらいがよいです。株間を広げた方が、立派なものが収穫できます。密植すると風通しが悪くなり、病気のリスクが高くなるのでおすすめできません。
畝高は、水はけがよければ、平畝でも大丈夫です。雨が多い時期や水田の後作で栽培する場合は、10~20cmくらいの畝高にした方がよいです。そのため雨の多い作型に栽培する「サマードーム」は、特に高畝で栽培するのがおすすめです。
「Myドーム」シリーズは、何度もお伝えしていますように草勢が強いのが特長です。土質にもよりますが、吸肥力が強いので、肥料のやり過ぎに注意してください。
特に、暑い時期に肥料が多過ぎると、葉ばかり茂ってなかなか花蕾ができなかったり、病気にかかりやすくなったりします。肥料の量は他の品種に比べ、2割減で大丈夫です。そのため「Myドーム」シリーズは減肥栽培にもおすすめの品種です。
ブロッコリーの施肥の基本は、元肥の割合は少なめにして、定植後2週間目と、4週間目に2回追肥で調整をする方法をおすすめしています。家庭菜園の場合、見極めが難しいと思いますが、肥料が切れてくると、葉が開き気味になり、葉色が薄くなって少し成長が緩慢になってきます。一方で、窒素がよく効くと、葉色が濃くなり、葉が立ってきます。
花蕾の形成期以降は急激な吸肥がないように、栽培前半にできる限り追肥は終わらせてください。
一般的には窒素(N)・リン酸(P)・カリ(K)が8-8-8など同数のものがおすすめです。微量要素も大切なので、元肥もしくは追肥に微量要素も含まれているものを使うのが便利だと思います。
固形肥料を入れたのに株が小さいから、さらに追肥をして、雨が降ったら一気に肥料が効いて、いろいろな病気が出てしまったという方がよくいらっしゃいます。固形肥料をいくらやっても畑が乾いていたら効きません。そういう時は、追肥をするのではなく、水やりをしてください。
ブロッコリー栽培に慣れていなければ、追肥は速効性の液肥を葉面散布して、回数にこだわらず、小まめに調整する方が管理しやすいかもしれません。
ブロッコリーはどんな食べ方でも私はおいしいと思います。でも、やっぱり焼いたり炒めたりした方が香ばしくて一番好きかもしれません。油で炒めた後、少し水を入れて蒸して食べるのも好きです。
日本人はブロッコリーの茎もムダにしない方が多いですね。茎の繊維質な緑の皮を取り除いて、ぬか漬けやきんぴらにして食べます。
家庭菜園ならではの太い茎を生かしたコールスローもぜひ試してもらいたいです。
ブロッコリーの茎を粗いみじん切りにしてコールスローにすると、舌触りよくシャキシャキして茎の甘さも味わえます。キャベツのコールスロー顔負けのおいしさですよ。
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食べ応え抜群で目を引く圧倒的な大きさ!
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「グランドーム」 -
アントシアンやべと病が出にくい!
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寒くても高品質
「ウインタードーム」 -
夏の暑さにとにかく強い!
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「サマードーム」
私が2012年から4年ほど、イギリスに駐在していた時の話です。ブロッコリーの収穫が終わった畑に羊を放って、外葉を食べさせ、畑にふんをさせることで土を肥沃にするという循環型農業をしている方がいました。
ブロッコリーを収穫後、葉が残ってもったいないし、それを片付けるのも手間ですからね。イギリスでもメジャーな方法ではありませんが、日本ではまず聞かない話です。
ブロッコリーにまつわる
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