サカタのタネ ブリーダーに聞きました ブリーダー取材こぼれ話「ニンジン」

こんにちは、サカタのタネ園芸通信編集部です。ニンジンのブリーダーを取材したこぼれ話をお届けします今回は、現役ブリーダー3名と先代のブリーダー1名の計4名に取材をしたので、思わず「へぇ」と驚く内容を盛りだくさんでお届けします。

ぜひ本編の『ブリーダーに聞きました!ニンジン「ベーターリッチ®」愛されて30年!ニンジン嫌いを減らした立役者』もご覧ください!

――サカタのタネ オンラインショップの「ベーターリッチ」の口コミを見ると、やはり「おいしい」というキーワードがすごく多いです。30年間も愛されている品種について、どう感じていますか。

島村
「ベーターリッチ」は、開発から育て方、売り方まで当社の総合力がすべて詰まった品種だと思います。

長友
営業のたまものですよね。多分、当社の営業担当でなかったら、ここまで長く愛される品種にならなかったと思います。本編でお話ししたように、この品種は種を売った後にもいろいろ問題が出た品種でしたからね。

ニンジン「ベーターキャロット※」発売当時のポスター ※青果物では「ベーターキャロット」で流通

ニンジン「ベーターキャロット※」発売当時のポスター
※青果物では「ベーターキャロット」で流通

島村
ここに至るまで、営業担当が頑張ってくれたんだなと思います。本当に皆さんのおかげです。お店に「ベーターリッチ」が並んでいると、やっぱりうれしいです。私たちは何もしていません。ブリーダーは、畑でいろいろなニンジンを作っているだけですから(笑)

――当社のニンジンに「港」が付く品種が横浜に由来しているとは、まったく知りませんでした。

長友
当社のニンジンが固定種をメインで売っていたころ、ブリーダー以外になぜか横浜の本社にあった生産部や研究室といった部署でもニンジンの品種を独自で開発していました。

ニンジン「金港四寸」

ニンジン「金港四寸」

だから、本社で開発された当社の固定種には、「金港四寸」や「春蒔金港五寸」のように「金港」という横浜の地名がつけられていたんですよ。

――ニンジンのブリーダーでよかったことはありますか。

島村
ニンジンは、抜くまで分からないというのが不安ではあるんですけど、抜くときの楽しみというのがあります。抜いて出来がよいと、すごくうれしいです。キャベツなどは、生育途中で「うわー、今年はダメだ」と分かっちゃいますからね。

――本編では、当時のニンジン係は肩身が狭かったというお話を聞きましたが、今は何棟くらいハウスがあるのですか?

島村
先輩の皆さんが頑張ってくださったおかげで、今はニンジン用のハウスが40棟近くあります。今はクーラーが効いた中で作業していますけど、そのころは他の係が涼しい場所を使ってしまっていました。だから、いつもニンジン係は40度以上の炎天下のハウスの中で毛除(けじょ)の作業をしていたと長友さんからよく聞かされました(笑)

左:採種したばかりのニンジンの種 中央:毛除を行ったニンジンの種 右:まきやすいように加工処理したニンジンのペレットシード

左:採種したばかりのニンジンの種 中央:毛除を行ったニンジンの種 右:まきやすいように加工処理したニンジンのペレットシード

長友
採種したばかりのニンジンの種は、毛がいっぱい付いています。毛除といって、その毛を落とさないといけないんですけど、湿っていると落ちないんですよ。私は素手でやっていたので、種のトゲが刺さって、いつも手のひらに黒い点々が付いていました。

島村
今は手袋をして作業してますけど、私も素手の方が楽なので、どちらかというと素手でやってしまいたい派ですね。

長友
40度以上の炎天下のハウスの中だと高温でニンジンの種が乾燥してくれるので、毛が落としやすくなるんです。水を飲むと汗が出るじゃないですか。今は絶対にダメですけど、当時は「汗が出なくなってからが本番だ!」とか言って、毛除の作業をしてましたね(笑)

――ニンジンならではのトリビアはありますか?

伊藤
ニンジン係に入って一番衝撃だったのは、ニンジンの脱皮です。肥大前に皮層がむけるんです。抜いたとき、ちょっと面白いですよ。

島村
ニンジンは大人になるときに一皮むけるんです。

山口
本葉4~5枚くらいの間引きのタイミングに抜くと分かります。首元を見てみると、ペリっとかさぶたのような感じになっていて、ニンジンを栽培していないと分からないですね。

長友
あとは通常、ニンジンの葉は捨ててしまうじゃないですか。熊本の生産者の話なのですが、無農薬で栽培しているので、その葉をペットフードの会社に卸して、ペットフードに入れて、におい消しとして利用していました。

島村
ニンジンの葉を食べることでにおい消しの効果があるといわれているので、放牧している動物たちに食べさせて、そのにおいを減らしているという話を海外でよく耳にしますね。

伊藤
面白い話ではないかもしれないですけど…。1月12日は「いいにんじんの日」といわれていますが、実際は、高麗(こうらい)人参の日だそうです。また、高麗人参はウコギ科で、一般的に食べられているニンジンはセリ科なので、科が全然違います。

島村
高麗人参は、根が分かれて「人」のような形をしているので、ニンジンと呼ばれていました。そして、後から入ってきた今のニンジンはセリの葉に似ていたので、「セリニンジン」という名前で広辞苑などにも登録されました。ところが、現代のニンジンの方が一般的になったので、今は後発の方がニンジン、先に入って来た方が高麗人参と呼ばれるようになりました。

伊藤
あとはニンジンの種のヤニですね。これは種苗メーカー以外にはあまり知られていないと思います。

島村
ニンジンの種のヤニというのは、油です。かなり出るので、海外だとせっけんとかに利用されることがあります。でも、種にヤニが出ると発芽しなくなるので、種苗会社はそのヤニがあると困るんです。しかも、品種によって出る、出ないがあります。

長友
松ヤニみたいな感じなので、種をバラバラにしたいのに、種同士がくっついて塊になってしまうんです。あと、種子倉庫にニンジンの種があると、ニンジン臭でいっぱいになります。セリでもなく、独特なにおいだよね。

山口
ツーンと鼻を突くようなにおいです。

島村
ニンジンの種は、結構くさいです。ところが、そのにおいをすごく好きな人もいて、ニンジンの種を枕にして寝たいという従業員もいるくらいです。私は嫌いなので、もういい!ってなりますけどね。でも、花はいい匂いがしますよ。

あと、F1のニンジンの花を咲かせると緑が多いです。抽苔して花が咲いてしまったものを青森では、緑色のレースフラワーとして切り花で出荷している方もいます。野菜だと1本数十円ですけど、花だと珍しいので1本300円くらいになるそうなので、青果よりも価値が高くなるケースもありますね。

長友
ニンジンの花は、黄緑だけではなく白もあるし、ピンクがかったようなものもあるんですよ。一時期、ピンクがかった方の種を花のブリーダーに渡して、レースフラワーの代わりにできないか?みたいなことをやっていた時期がありましたね。F1だと花粉が出ないし、花びらのように見える部分は「がく」で落ちないので、飾ったときにテーブルが汚れなくていいんですよ。

島村
ニンジンの花は目立ってきれいということで、花博やフラワーパークなどでも使われていました。

ニンジンの花

ニンジンの花

長友
それから、北海道だと本州よりも短い日数で収穫できます。北海道は日が長いので、その分、植物が光合成できる時間も長くなり、植物の成長が早いんですよ。ニンジンに限った話ではなく、他の作物も収穫日数が本州よりも短くなります。

だから、雑草の成長も早いです。まだ小さいから大丈夫なんて本州の感覚でいると、北海道はあっという間に大きくなりますよ(笑)

――ニンジンのブリーダーあるあるを教えてください。

山口
スーパーに入ったら、まずニンジンコーナーに行って、産地と形と色を見て、品種を当てたくなります!地上部の葉を見ても分かりませんが、地下部は差が出るので分かりやすいです。

島村
それで、当社の品種だとテンションが上がりますね!ニンジンのブリーダーは、青果を横からではなくて、上から見ますね。ニンジンを買わないときでも売り場に長居します(笑)

――ニンジンのブリーダーで一番大変な時期はいつですか。

島村
夏です!ニンジンは露地作物ですし、日本の夏は湿度がものすごくきついので、夏が一番大変ですね。

ニンジンは採種が難しいとお話ししました。ニンジンはできるだけ虫が少なくて、気温が比較的穏やかで雨が降らないことが大切なので、採種地は南半球にあります。だから、真夏の6~7月に季節が逆の南アフリカやチリに行かないといけないんです。

日本の空港までは半袖で行って、現地は冬なので4着くらい重ね着しないとブルブル震えるほど寒いです。1年に何回も南半球を行き来するので、四季が何度も入れ替わるのも体力的にきついです。衣替えができないっていつも妻に怒られます。ニンジンブリーダーの宿命ですね。(笑)

――私もいつか、緑やピンクのニンジンの花を実際に見てみたくなりました。普段はなかなか知ることのできない、ニンジンにまつわる興味深いお話をたくさんありがとうございました!

取材日:2025/12/11
文・写真/園芸通信編集部

 

 

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