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【第5回】畑は地べただけにあらず〜コンテナというもう一つの畑〜

【第5回】畑は地べただけにあらず〜コンテナというもう一つの畑〜

2019/04/23

庭や畑がなくとも、花や野菜を手軽に育てられるようにしてくれるのが容器を使ったコンテナ栽培です。野菜や花を栽培するわけですからコンテナも立派な畑や花壇といえましょう。むしろ畑や花壇のような地べたにはないメリットもあります。今回はコンテナ栽培について解説していきます。

©サカタのタネ

畑などにはないメリットが魅力

まず、コンテナ栽培のメリットについてお話しましょう。なんといってもコンテナなら場所を選ばず栽培できます。ベランダ、バルコニー、屋上、テラス、エントランス周り、階段、庭先などさまざまです。

次に移動が容易ということがあります。例えば台風が来たとき、風雨から守るため一時的に室内へ移動なんて技はコンテナにしかできない芸当です。また、複数の作物を作ったときに、効率よく日に当てるため丈の低いものは前に、高いものは後ろにといった具合に配置を自由にできます。ベランダなど狭い場所を立体的に効率よく活用できます。

さらに、基本的に容器サイズ以上に根は張れないということも大きな特徴です。このことは選択するコンテナのサイズを誤れば大きく育たないといったデメリットになります。しかし、1鉢に1株を植え複数株を育てた場合は、どの株も同じ容量の培養土を与えられているので同じ量の栄養で均一に栽培できるメリットがあります。これを利用し高価格の高糖度トマト栽培をしている農家もいます。

他にも土が地面とは隔離されているので、土壌病原菌に汚染されていない土を使えば土壌病害を避けることができるといったこともあります。

品目、目的、スペースに応じてコンテナを選ぶ

コンテナには、円形の鉢(ポット)、長方形のプランター、袋などがあります。素材は素焼きや木などの天然素材とプラスチックに分けられます。機能性を求めるならポリプロピレンやポリエチレンなどのプラスチックのコンテナがおすすめです。デザイン性は素焼き鉢には及びませんが、軽く、割れにくく、乾きにくく、衛生的で移動しやすく、何よりも安価といった多くの長所を持っています。

浅くて口径の広い平鉢を使ったパンジー、アリッサム、チューリップの寄せ植え

鉢(ポット)は、果菜類1株の植え付けには通常10号鉢(16L・直径約30cm)以上の鉢を使います。果樹ならば45Lとか60Lといった大鉢で育てます。花の寄せ植えは深さが浅く、口径が広い平鉢(写真)なら多くの種類の花を複数株植え込めます。

小型プランターを使った小カブの栽培

プランターは、小型40(5L・長さ40cm×幅15.6cm×深さ14cm)、標準65(14L・長さ65cm×幅28.8cm×深さ19cm)、深型700(36L・長さ70cm×幅30cm×深さ32cm)などが使い勝手がよいです。集合住宅のベランダでコマツナ、チンゲンサイなどの葉菜類や小カブ、ラディッシュなどのミニサイズの根菜類を栽培するには小型プランターが便利です。写真のように長さ40cmのプランターでカブなら8つも収穫できます。特にベランダでは日が一方から差すので定期的にコンテナを回す必要があり、小さいので女性や子どもでも扱いやすい点は注目です。

標準型プランターを使ったエダマメの栽培

野菜のサイズが大きいとか、より多くの野菜を作りたい場合は、公共スペースで多く見かける標準タイプ(写真)のコンテナがよいでしょう。

深型プランターを使ったウコンの栽培

ダイコンなど根が長い、あるいは増し土が必要な根菜類の栽培には深型プランター(写真)が適しています。

つる性の植物をネットに這わせて作る緑のカーテンは、株を大きく育て、葉をたくさん茂らせることで緑陰をつくり、蒸散による気化熱を利用して周辺温度を下げます。従ってコンテナの容量が小さいと、土が乾きやすく水やりの手間がかかるばかりか、果実を付ける野菜を選んだ場合は収穫物の出来も悪くなってしまいます。また、ネット幅の単位は、半間つまり90㎝を基本としていることから、それに収まり、かつできるだけ大きなサイズにすることも大切です。それらを満たすサイズのプランターとして大型900(45L・長さ90cm×幅32cm×深さ27cm、あるいは58L・長さ90cm×幅35cm×深さ30cm)がおすすめです。

大型プランターを使ったネットメロン「ころたん(R)」の緑のカーテン ©サカタのタネ

培養土の袋をそのまま使ったダイコン「冬自慢」の栽培

袋も培養土を入れれば立派なコンテナになります。市販の培養土(約16~20L)を購入して、袋をそのまま使うこともできます。また、土のう(約30L)やガラ袋(約40L)もコンテナとして使えます。袋のメリットは、深さを自由に変えられることです。特に根菜類の栽培で能力を発揮します。ダイコンやジャガイモでは増し土の度に袋の縁をたくし上げることができ便利です。ゴボウやサツマイモの栽培もできます。鉢のように回しやすいので便利です。袋を使ったコンテナの作り方は次の通りです。

① 袋の天地を逆さにして袋の底辺の両端を持つ。
② 200mm程度の結束バンド(「インシュロック」など)で両端を縛り上げる。
③ 適当な長さの棒を用いて水抜きの穴を4、5カ所開ける。
④ 天地を返して、袋の上端をハサミで切り落とせばコンテナが出来上がる。
⑤ 袋の縁部分はたくし下げてもよいが、春植えの苗などではそのまま上げておけば寒さや風よけのあんどん代わりになる。

ベランダでの栽培は一日と一年を通した日当たりに注目して

コンテナの設置場所の日当たりは、栽培の成否に関わる重要なポイントです。多くの作物は生育のために強い光を必要とします。前述の通り、コンテナ栽培の利点は移動できることなので、日当たりや風通しのよい場所を選んで設置します。例えば、集合住宅のベランダでは、その方角と構造に配慮して、一日のうちの日照時間と一年を通し季節ごとに変わる日当たりに注意し、少しでも長く日が当たる場所を選びましょう。

私たちの住む北半球では南寄りに東から太陽が昇り、西に沈みます。つまり、南向きのベランダが一番日の当たる時間が長いということになります。次に植物が好むのが午前中の東からの光です。これは午前中にしっかり光合成できれば午後は光合成によってできたでんぷんをゆっくり分解してエネルギーを取り出すことができるからです。その次が西向きで、最後が北向きということになります。北向きのベランダは日当たりが期待できないので、栽培できる植物はかなり限定されてしまいます。このように方角によって日当たりは大きく異なります。

それでも日当たりが悪いという理由で最初から諦める必要はありません。作物の種類によって、日当たりがよくないと育たないものもあれば、半日陰、あるいは日陰でも育つものがあります。日当たりを好むもので6時間以上、半日陰でも育つ作物は4時間ほど、日陰で育つものは一日1~2時間ほど直射日光が当たれば栽培できます。栽培場所の日当たりに応じて作物を選びます。

太陽の位置や出ている時間は、季節によっても大きく変わります。冬至(12月22日ごろ)は、一日のうちで太陽が一番南にくる南中高度が東京で32°しかなく、昼間が最も短くなります。

逆に夏至(6月21日ごろ)は太陽が最も北に位置し、南中高度は78°にもなり真上から照りつけているような感じになり、昼間が最も長くなります。

ベランダのフェンスが格子状の場合は太陽光を得やすく、冬は室内にまで日が差します。しかし、フェンスが目隠しのためにコンクリートなどで出来ていると、十分な太陽光が得られません。

真夏は省エネ効果の期待から多くの集合住宅で軒が張り出し日中にベランダ内へ日が入らないように設計されています。そこで格子状のフェンスではコンテナをできるだけフェンスに寄せて植物に日を当てます。さらに1週間に1回はコンテナを回して植物に満遍なく太陽光が当たるようにします。

コンクリートなどのフェンスでは、コンテナの位置を高くすることで日当たりを改善できるので台などの上にのせるとよいでしょう。ただし、台を設置する場合は、子どもが上って転落するようなことがないよう、注意が必要です。さらにフェンスの上にコンテナを置くことも危険なのでやめましょう。

左:夏のベランダ菜園、右:晩秋のベランダ菜園

コンテナの床への直置きはできれば避けて

意外と大切なのがコンテナの置き方です。コンテナを床に直接置くことはすすめられません。理由は床に直接置くことで、①水が底からうまく抜けず土が過湿になる。②ダンゴムシやナメクジなどが床を伝って侵入しやすくなる。③風通しが悪くなる。④日当たりが改善されないなどの問題があるからです。そこで、すのこなどを敷くのもよいのですが、おすすめなのが園芸店などにあるポリ鉢を入れるシステムトレイをもらってきて逆さにして敷き詰める方法です。重ねる枚数で高さも調節でき、コンテナを床に直接置かずにすみます。

コンテナへの水やりはあふれるくらいに

コンテナ栽培では、露地の畑のように地下水からの水の補給がないので全期間を通して水やりが必要です。 本葉が出るぐらいまではジョウロなどで水やりし、植物体がある程度の大きさになったらコンテナの縁からあふれるぐらいまで株元に水をやります。葉や花に水がかかると、腐ったり、カビが付いたりするので、ジョウロなどで株の上から水をかけるのではなく、ジョウロの先を外して鉢土にたっぷり水やりします。

直径30cm以上の鉢や大型のプランターなどでは、株が大きくなったら計量カップやバケツから直接水やりした方が効率的です。コンテナへの水やりのコツは「縁からあふれるぐらいまで水をやる」ことです。あふれても構いません。これは、水がコンテナの底から抜けるときに、サイホンの原理で土の表面から空気が入るようにするためです。新鮮な空気が土の中に入ることで、植物の根と土の中の微生物の活動が活発になります。

サイホンの原理で空気を取り込むためには、土はコンテナの8分目ぐらいまで入れ、残り2割にウオータースペースと呼ばれる土を入れない部分を作るようにします。土表面の一部だけに水やりをすると、水が抜けきらず停滞(停滞水)し、土中に行き渡らないばかりか、土中の空気も入れ替わりません。そのため、新鮮な空気が取り込まれず、停滞水のある部分は病気のもとになる嫌気性菌が繁殖し、呼吸もできず根腐れの原因になります。

また、一日のうちで水やりは、冬は早朝を避け昼までに、それ以外の季節は午前10時ぐらいまでにします。夕方に軽くしおれるぐらいなら、あまり気にする必要はありません。曇りや雨の日などは、よほど乾いていない限り水やりしなくてもよいのです。

次回もお楽しみに。

JADMA

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