文
望田明利
もちだ・あきとし
千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも家庭菜園で多品目の野菜を栽培している。
【第5回】果実のトラブル① 虫に果実・さやの中を食べられた、キュウリが変形する
2020/04/21
トマトやキュウリは家庭菜園の主役ともいえる人気の高い野菜です。他に、エダマメやトウモロコシなども、お店で購入したものとは一味違った新鮮な味が楽しめて人気です。そんな果菜類に害を及ぼす病害虫などのトラブルを解説していきます。
【目次】
被害1. 果実・さやの中を食べられた
●犯人その1:タバコガ、オオタバコガ
タバコガ、オオタバコガの生態
タバコガ、オオタバコガの防除方法
[ちょっと雑学]見分けづらいタバコガとオオタバコガ
●犯人その2:サヤムシガ
サヤムシガの生態
サヤムシガの防除方法
[ちょっと雑学]さやの中を食べる害虫は他にも!
●犯人その3:アワノメイガ
アワノメイガの生態
アワノメイガの防除方法
[ちょっと雑学]トウモロコシと未成熟トウモロコシの違いって?
●犯人その4:ナメクジ、ダンゴムシ
被害2. キュウリの実が曲がる、変形する
●犯人:アブラムシ
アブラムシの生態
アブラムシの防除方法
【ちょっと雑学】アブラムシは雌ばかり?
被害1. 果実・さやの中を食べられた
トマト、ナス、ピーマン、オクラなどを食べるタバコガ・オオタバコガ、エダマメ(大豆)、インゲンマメなどを食べるサヤムシガ、トウモロコシを食べるアワノメイガ、イチゴを食べるナメクジ、ダンゴムシなどが考えられます。
●犯人その1:タバコガ、オオタバコガ
ミニトマト、トマト、ナス、ピーマンなどのナス科植物やオクラの果実の中を食害します。他にもキュウリ、キャベツ、レタスなど多くの野菜の葉や茎を食害して大きな被害を与えます。
タバコガ、オオタバコガの生態
年3~4回発生します。さなぎの状態で土の中で越冬し、成虫は若い葉や花蕾、果実の表面などにまとめて産卵せず、卵を1個ずつ産み付けます。春先は目立ちませんが、気温が上がってくると1匹で数百個産卵するため、梅雨明けごろから被害が現れ、8~10月の被害が目立ちます。孵化した幼虫は淡緑色をしており、孵化後すぐは葉や花などを食害しますが、成長するにつれ、果実に侵入して食害するようになります。ミニトマトなどは赤く熟した果実より、硬い、緑色の果実を好むようで、数mmの穴を開けて侵入して食害します。穴の大きさが4~5mm程度になったときに被害に気が付く場合が多いのが実情です。
タバコガ、オオタバコガの防除方法
穴の開いた果実には、中に幼虫がいる可能性があるので取り除き、付近に放置せず処分しましょう。果実に侵入されてしまうと防除が難しくなるため、侵入予防として株全体に「STゼンターリ(R)顆粒水和剤」などを散布します。トマト、ナスには、手軽に使用できる「ベニカXネクスト(R)スプレー」なども有効です。
[ちょっと雑学]見分けづらいタバコガとオオタバコガ
タバコガとオオタバコガは、同じような生態であり、特に幼虫のときは大きさ、体色などが似ているため、区別がつきにくいものです。違いは、タバコガは主にトマト、ナスなどのナス科植物を加害し、オオタバコガはナス科植物以外の多くの野菜を加害するという点です。
犯人その2:サヤムシガ
エダマメ、インゲンマメ、アズキなどマメ科植物のさやの中を食害します。
サヤムシガの被害にあったエダマメ
サヤムシガの生態
年3~4回発生します。さなぎの状態で土中で越冬します。ソラマメを育てていると新芽や茎内で幼虫の状態で越冬しているところを見ることもあります。成虫は新葉部分に産卵し、初めは新葉を数枚付着させ、その中でつづり合わせて食害します。開花してさやができると“さやとさや”、“さやと茎葉”が重なり合うように付着させ、つづり合わせてさやの中を食害します。
サヤムシガの防除方法
初めは新葉を数枚付着しつづり合わせてその中で食害するので、植物の生育初期以外はこのときに新芽を摘み取って処分します。または、さやができ始めたら「ゼンターリ(R)顆粒水和剤」、「スミチオン(R)乳剤」などを散布して退治します。
[ちょっと雑学]さやの中を食べる害虫は他にも!
エダマメのさやの中を食害する虫は、今回取り上げたサヤムシガが目立ちますが他にもいます。葉やさやがつづり合わされているかどうかが見分け方になります。単にさやに穴が開いて中を食害している虫はシロイチモジマダラメイガ、被害を受けたマメが成長しないためその部分のさやも成長しません。さやがひょうたん形などに変形している場合はサヤタマバエによる被害です。
犯人その3:アワノメイガ
トウモロコシを収穫してゆでるために皮をむいたときに発見されることが多い虫です。
アワノメイガの生態
年に2~3回発生します。加害場所で越冬し、6月ごろから成虫が現れます。葉裏や雄穂などに産卵し、7月ごろから被害が出始めます。幼虫は黄白色で体長20mm程度の大きさになります。トウモロコシの雄穂が出穂するころに食入されることが多く、穂が白くなって、枯れたり、折れたりします。また、葉の付け根付近から茎内に侵入し、茎が折れたりする被害も出ます。アワノメイガのふんが見えるので、すぐに気が付くでしょう。
アワノメイガの防除方法
茎や果実内に入ってしまうと防除が難しくなります。防除の目安としては雄穂が出てきたとき、雌穂が出てきたときの2回は必ず薬剤を散布します。「とうもろこし専用殺虫剤 三明デナポン粒剤5」、「スミチオン(R)乳剤」などで防除します。
[ちょっと雑学]トウモロコシと未成熟トウモロコシの違いって?
薬剤のラベルの適用作物に「トウモロコシ」あるいは「未成熟トウモロコシ」と記載されています。どう違うのでしょうか。「未成熟トウモロコシ」はゆでて食べるトウモロコシです。「トウモロコシ」は未成熟トウモロコシと子実(種子)までを含みます。
犯人その4:ナメクジ、ダンゴムシ
イチゴは果実が土に接することが多いため、ナメクジ、ダンゴムシの被害を受けやすい作物です。これらの被害と防除方法についての詳しいことは、本連載の第1回目に記載していますのでご参照ください。
被害2. キュウリの果実が曲がる、変形する
キュウリは健やかに生育すると真っすぐな果実になります。しかし、栽培していると曲がったり、尻太り(同じ太さではなく先端が太くなる)や尻細り(先端が細くなる)の果実になったりします。このような症状はキュウリがストレスを感じると起こります。ストレスの原因は、日照条件の悪化、土壌水分の過不足、高温、乾燥や肥料の過不足などが挙げられますが、ここでは病害虫について見ていきましょう。
果実が曲がってしまったキュウリ
犯人:アブラムシ
ストレスの原因となる病害虫で代表的なものはアブラムシです。
アブラムシ以外ではウリハムシや、うどんこ病なども奇形果の発生の一因です。
アブラムシの生態
アブラムシは春から秋まで発生を繰り返します。しかし暑さには弱いため、夏場は発生が少なくなります。新芽部分にも寄生しますが、主に葉裏に寄生しているため気が付かないこともあります。吸汁するためキュウリは生育不良になり、ストレスの原因になります。また、アブラムシはウイルス病を媒介したり、アブラムシの排せつ物の上にすす病の原因菌が繁殖して黒くなるなどの被害を誘発します。
アブラムシの防除方法
キュウリはすぐに大きくなり、毎日収穫できるようになります。アブラムシの口に相当する気門をふさいで窒息死させる食品由来の薬剤、「ベニカマイルド(R)スプレー」などが安心して使用できますが、かけむらのないように丁寧に散布することが大切です。
[ちょっと雑学]アブラムシは雌ばかり?
春から夏ごろにかけて卵から孵化したアブラムシは必ず雌です。そして卵ではなく雌の子どもを産みます。環境条件がよいと子どもは10日くらいで親になり、毎日数匹~十数匹の子どもを産むため、短期間に爆発的に発生します。物が急激に増えることを「ネズミ算式に増える」といいますが、アブラムシ算式はそれ以上の繁殖力です。成育密度が高まるとはねのあるアブラムシが生まれてきます。これを雄と思っている人もいますが、これらも雌です。では雄は?というと、秋になって寒さを感じてくるようになると初めて雄が生まれて、この雄と交尾をした雌が芽の部分などに産卵し、卵の状態で冬を越します。
次回は「果実のトラブル② 果実に斑点ができた、変色した、など」をお送りします。お楽しみに。
注釈
防除薬剤は病害虫の効果だけで記載しております。使用の際は適用作物をご確認の上、ご使用ください。
写真提供:住友化学園芸株式会社
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