文
望田明利
もちだ・あきとし
千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花・花木などを栽培している。
【第8回】農薬を上手に散布する方法と注意点を教えて!
2022/07/19
せっかく適用のある農薬を選んで、製品ラベルに記載されている通りに希釈する(薄める)などの使用方法を守っても、散布の仕方によっては期待したような効果が表れないことがあります。そうならないために、今回は農薬の上手なまき方、注意点、農薬の保管などについて解説していきます。
【目次】
1. 農薬の剤型別に上手な散布方法を知ろう
①希釈して噴霧器で散布する場合
②ハンドスプレー剤・エアゾール剤を散布する場合
③粒剤・ペレット剤を散布する場合
【コラム:薬剤散布は植物の上と下、どちらからまく?】
2. 散布前に確認しよう
①散布時の体調と服装
②散布場所
③天候
3. 散布後に注意しなくてはならないことは?
4. 残った農薬はどう保管すればいい?
1. 農薬の剤型別に上手な散布方法を知ろう
農薬は剤型によって使用方法が異なります。剤型については第4回で解説していますので、そちらを参照してください。それではそれぞれ分けて説明していきます。
①希釈して噴霧器で散布する場合
噴霧器は、広範囲に散布するときに使われることが多いです。広範囲に散布すると、細かいところに目が行きづらくなりがちです。病害虫は葉の表面だけでなく裏面にも寄生しています。かけむらのないように、裏面まで葉先から薬液が滴り落ちるくらい丁寧に散布しましょう。
雑に散布してしまうと、薬剤のかからなかった病害虫が生き延び、被害がすぐに再発します。病害虫が発生した植物にだけ薬剤散布を行うのではなく、ラベルに適用作物として記載されている周辺の他の植物にも散布するようにしてください。病害虫は似た種類が同じ時期に発生することが多いので、他の植物にも発生していると考えて対応するのが大切です。
②ハンドスプレー剤・エアゾール剤を散布する場合
ハンドスプレー剤やエアゾール剤は、希釈の必要がなく一般的に家庭などで鉢数が少ない、散布面積が広くない場合に向く製品です。面積が広い場合でも応急用として利用できるため、1本は用意しておきたいものです。
ハンドスプレー剤は植物の近くから散布してもエアゾール剤のように冷害を起こすことはありません。かけむらがないよう、丁寧に散布しましょう。
また、ハンドスプレー剤は手軽でよいのですが、鉢数が多いと手が疲れてしまうのが難点です。その場合は1~2L程度の噴霧器の購入も考えるとよいでしょう。
エアゾール剤の場合はボタンを押すだけで噴霧できるので、手が疲れることはありません。しかし、新芽や葉の近くで噴霧した場合、付着したガスが気化するときに熱を奪い、急激に温度が下がります。そのため新芽などが冷害を起こして枯れてしまうことがあります。
エアゾールによる冷害を起こさないようにするには、30~50cm程度離れた場所から噴霧します。また、噴霧器のように葉先から薬剤がしたたり落ちるほど噴霧せず、噴霧液が均一にかかる程度に散布すれば十分に効果を発揮します。
③粒剤・ペレット剤を散布する場合
粒剤の場合、代表的な製品として「GFオルトラン(R)粒剤」などの殺虫剤があります。パラパラとまくだけで害虫が退治できるため、よく使用されます。
「GFオルトラン(R)粒剤」を例に取ると、花壇や畑で使用する場合、種(タネ)をまく場所に1平方メートル当たり3~6gを表層の土と混ぜてから種をまきます。苗を植え付けるときには、掘った植え穴に1~2g程度まき、軽く土と混ぜた上に苗を植えます。
効果は1カ月程度持続しますが、草花類では生育状況に応じて年に数回、土の表面に1平方メートル当たり3~6gまいて、継続的に害虫を退治することもできます。
なお、粒剤・ペレット剤は、種まきや苗を植え付けのときにしか使用が認められていない野菜が多いので注意してください。
鉢植えの場合、戸外ではにおいがそれほど気になりませんが、室内では気になるかもしれません。そのときは、鉢土の表面に薬剤をパラパラとまき、表層の土と軽く混ぜるとにおいが和らぎます。また、散布量が多いと葉先や葉の周辺が変色するなどの薬害が出るので気を付けてください。
ちなみに、手軽に害虫が退治できるということで、庭木にも使用したい方もいるでしょう。しかし、粒剤タイプは草花や野菜、根の範囲が限定される鉢やプランターで育てる植物には適していますが、庭木などには不向きです。これについては第4回で解説していますので、そちらを参照してください。
ペレット剤の場合、多くは、ネキリムシやナメクジなどの誘殺剤です。ネキリムシは土の中にいるため、土と混ぜてしまう方がいますが、これは間違った使い方です。正しくは、植物周辺の土の表面にパラパラまくだけです。夜間に活動する害虫が餌と勘違いして食べることで退治できます。
どちらの場合でも、第7回で記載したように、計量容器などの使用器具を用意しておくと便利です。
【コラム:薬剤散布は植物の上と下、どちらからまく?】
標高が2~3m以上ある庭木類の薬剤散布をする場合は、木の上の方、下の方どちらからまいたらよいでしょうか?
私は、下の方から散布することをおすすめします。上の方から散布すると、葉先から滴り落ちた薬液が下の葉をぬらし、薬剤散布が済んだと勘違いしてしまい、かけむらが生じるからです。下の方から散布すると、散布していない場所はぬれていないため、葉の表と裏にしっかり散布できているかをチェックできます。
では次のページから、実際に散布をするときの服装や周囲への配慮について解説していきます。