アオイ科オオハマボウ属(Talipariti)は、マングローブ林内部や内湾の干潟など、海と陸の境界環境に生育する植物群です。これらはアオイ科の中でも特殊化が進み、最も海岸環境に適応した系統だと考えられています。
一方で、アオイ科フヨウ属(Hibiscus)は海岸環境に特化した植物ではありません。しかし、種子の散布様式は海岸環境との深い関係があったように思えるのです。

フヨウ属の60%以上はアフリカ大陸のインド洋側に分布しており、そこに属の起源があると推測されています。現在のフヨウ属が汎熱帯域に広く分布している事実を踏まえて、どのような旅路を経て東アジアへ到達したのか推測してみたいと思います。

太平洋やインド洋の絶海の孤島にも、多くのフヨウ属植物が分布し、それぞれ独自の進化を遂げています。この事実は、海流がフヨウ属の散布拡大を支えてきたことを示唆します。
フヨウ属の種子は比較的大きく、硬い外皮(種皮)を持ちながら軽量で、水に浮く構造を備えています。これは海流散布に適した形質です。

コキオ・ウラ
コキオ・ウラ(kokiʻo ʻula)Hibiscus kokio(ヒビスカス コキオ)アオイ科フヨウ属。ハワイ語で「赤いハイビスカス」を意味し、花色は赤から濃いだいだい色、花径は約6cmです。細い枝を分枝する灌木(かんぼく)で、雌しべの先端が5裂し、妙に長い花柱が横へ広がる特徴的な花を咲かせます。
ハワイ諸島固有の植物で、ハイビスカスの原種の一つとして知られています。私は海岸から離れた乾燥した丘陵地で、この植物を観察しました。

コキオ・ケオケオ
コキオ・ケオケオ(kokiʻo keʻokeʻo)Hibiscus arnottianus(ヒビスカス アルノティアヌス)アオイ科フヨウ属。ハワイ語名は「白いハイビスカス」を意味し、種形容語のarnottianusは、スコットランドの植物学者ジョージ・ウォーカー=アーノット(George Arnott Walker-Arnott、1799~1868年)への献名です。花は大きく、形態的には園芸種のハイビスカスに近い印象を受けます。
ハワイ諸島には2系統のケオケオが知られており、本種はオアフ島とモロカイ島に固有の植物です。

ヒビスカス ブラケンリッジイ
ヒビスカス ブラケンリッジイHibiscus brackenridgeiアオイ科フヨウ属。種形容語のbrackenridgeiは、ハワイ植物を研究した植物学者ウィリアム・ブラッケンリッジ(William Dunlop Brackenridge、1810~1893年)への献名です。
ハワイ諸島の乾燥した灌木林に固有の植物で、花径は約12cmと大きく、園芸種のハイビスカスを思わせる花容(かよう)を示します。

現在楽しまれているブッソウゲ(園芸ハイビスカス)は、ハワイ諸島(北太平洋)、モーリシャス島(インド洋)、フィジー諸島(南太平洋)などで独自に進化したヒビスカス類を交配して育成されたものです。
これらの植物は、大陸で生まれたフヨウ属の種子が海流によって絶海の孤島へ運ばれ、そこで長い年月をかけて独自の分化を遂げたものと考えられています。

絶海の孤島で進化した絶海孤島型ヒビスカスには共通した特徴があります。それは、赤い花弁や赤い中心部、蜜標を持ち、鳥類を花粉媒介者としている点です。

巨大で長い雌しべを備えた花容は、鳥媒介に適した構造です。上の写真はショウジョウコウカンチョウ(Northern Cardinal)ですが、この鳥によく似たミツスイ類がヒビスカスの花に訪れ、花粉を運びます。

東アジアにも海流散布型のフヨウ属が分布しています。この地域のフヨウ属は極端な海岸適応を示すわけではありませんが、海岸環境に依存して生育する傾向が強く、その分布は黒潮の流れとよく一致しています。
しかし、絶海孤島型のヒビスカスとは異なる点があります。それは、鳥類ではなく、昆虫類を花粉媒介者としていることです。

サキシマフヨウ
奄美大島の海岸林縁で観察したサキシマフヨウHibiscus makinoi(ヒビスカス マキノイ)アオイ科フヨウ属は、その代表例です。
種形容語のmakinoiは、この新種を記載した植物学者が、牧野富太郎氏に献名したものです。

サキシマフヨウの花容は、上の写真のような感じです。花色は白色から淡いピンク色で、花弁は大きく重なり合い、包み込むように開花します。
花径は約8cmの小型種で、樹高は3mほどの常緑から落葉低木です。花期は10〜翌2月の秋冬咲き、極短日条件で開花する一日花です。

サキシマフヨウは先島諸島で分化し、黒潮の海岸回廊に沿って北上し、沖縄・奄美を経て九州南部の島嶼(とうしょ)にまで自然分布しています。
絶海孤島型のヒビスカスは、鳥類を花粉媒介者とするため赤色を主体とした花を咲かせます。しかし、サキシマフヨウは昆虫を花粉媒介者として選択したため、派手な色彩を持ちません。
この違いを見ると、サキシマフヨウの起源を同じ海流散布型である、絶海孤島産のヒビスカスたちに求めることは難しいと思います。

東アジアのフヨウ属は、海流散布に依存しながら異なる進化経路をたどってきたと考えるのが論理的です。
控えめで優しい色合いのサキシマフヨウは、南の海を見つめながら、早朝に開き夕方には萎(しぼ)む、短命の花を咲かせているのでした。
次回は、『東アジア的アオイ科フヨウの仲間[その3]』です。お楽しみに。