前回のウンナンボンテンカの植物記で、「ウレナ属はアフリカの乾燥性疎林帯に分布の中心があり、起源地として汎熱帯へ広がったと考えられています」と書きました。
この記述は、そのままアオイ科という巨大な植物群にも当てはまります。アオイ科はアフリカからマダガスカルにかけてのインド洋域に起源を持ち、そこから汎熱帯へ広がりました。さらに、南北アメリカ大陸でも二次的な多様化を遂げたと考えられています。
現在では約250属、4300種に及ぶ大所帯となり、東アジアの植物相にも深く入り込んでいます。
植物分類では、アオイ科は巨大な系統群であり、アオイ亜科(Malvoideae)を含む九つの亜科(subfamily)に整理されています。さらにアオイ亜科(Malvoideae)フヨウ連(Hibisceae)を代表とする四つの連(tribe)に区分され、多くの属が配置されています。特にフヨウやヒビスカス型の花を付ける植物群は、Malvoideae亜科フヨウ連に属しており、アオイ科の主要な種が集中しています。
ここではフヨウ連を、分かりやすく「フヨウの仲間」と呼ぶことにします。このグループには、前回紹介したボンテンカ属(Urena)、美しい花を咲かせるフヨウ属(Hibiscus)、オオハマボウ属(Talipariti)、農業上重要なワタ属(Gossypium)、トロロアオイ属(Abelmoschus)などがあります。
今回の植物記では、主に東アジアに原生する「フヨウの仲間」について話を進めていきます。

フウリンブッソウゲ
フウリンブッソウゲ(風鈴仏桑花)Hibiscus schizopetalus(ヒビスカス スキゾペタルス)アオイ科アオイ亜科(Malvoideaeio)フヨウ連フヨウ属。
フヨウの仲間の話題に入る前に、はっきりさせておきたいことがあります。アオイ科は、『シキミ属[後編]』の中で述べた ANA(アナ)のような原始的被子植物ではありません。冒頭でも書いた通り、被子植物が爆発的に分化する過程で、アフリカからマダガスカルにかけてのインド洋沿岸域の熱帯を起源として生まれた植物群です。
アオイ科は、アフリカ大陸の安定した低地熱帯で分化したため、 造山運動や寒冷化といった環境ストレスを経験する前に熱帯・亜熱帯域へ分布を広げました。
そのため耐寒性を獲得する機会がなく、アオイ科のほぼ全ての属種は寒冷地に適応していません。これがアオイ科の大きな弱点ともいえます。

バオバブの果実
写真はバオバブの果実、これもアオイ科の仲間です。落ちていたので食べてみましたが、乾燥したヨーグルトのような味でおいしいものでした。バオバブという名前は、Adansonia(アダンソニア)アオイ科バオバブ属の総称です。
そんなアオイ科の世界的な分布北限の一つが、東アジアの三浦半島にありました。その植物は、ハマボウHibiscus hamabo(ヒビスカス ハマボウ)です。

ハマボウ
このハマボウたちは、近年になって他のヒビスカス類と比較した際に、極めて高い塩分耐性を持つこと、海浜環境に適応し固有の植物になったこと、さらに、特有の果実構造を持つことが評価され、海岸性ヒビスカス群をまとめたTalipariti(タリパリティ)属としてと学名変更が行われました。
従って現在のハマボウの学名はTalipariti Hamaboとされています。

改めまして、ハマボウTalipariti hamabo(タリパリティ ハマボウ)アオイ科オオハマボウ属です。
ハマボウは、ヒビスカス型の花容で、オクラに似た黄色い花を付けます。種形容語のhamaboは、リンネの使徒として知られているカール・ピーター・ツンベルク(Carl Peter Thunberg、1743~1828)が、日本での呼び名を学名に反映したものです。

ハマボウの果実と種子
このハマボウの果実を採取して、種子を観察しました。
種子の内部には空洞があるらしく軽量で、水に浮きます。ハマボウの種子は、海流によって散布されるように設計されているのだと思います。

ハマボウは三浦半島を北限とし、済州島から奄美大島にかけて分布しています。その海岸を分布南限としています。どちらかといえば東アジアの温帯域に生育する植物です。
アフリカ起源のアオイ科植物が、このような遠く離れた温帯域に分布している事実を考えると、ハマボウは東アジアの片隅で分化し、温帯域へ生育地を広げた派生的な種(しゅ)なのではないかと思います。

オオハマボウ
オオハマボウTalipariti tiliaceum(タリパリティ ティリアセウム)アオイ科オオハマボウ属です。かつては、Hibiscus tiliaceusとされていましたが、近年はハマボウと同じTalipariti属に分類されています。
オオハマボウは、ハマボウより植物全体が大型で、葉はハート型をしており、その表面は肉厚で強い照りを持っています。
属名のTaliparitiはポリネシア語で「海岸の木」を意味し、種形容語のtiliaceumはシナノキ(Tilia)のような葉を持つことに由来します。ちなみにシナノキもアオイ科に分類されています。

オオハマボウは、ハマボウのように温帯域での生育には適応していません。一方で、熱帯から亜熱帯のインド・太平洋沿岸をその生育地とする広域分布種です。
アフリカ起源と考えられるアオイ科の祖先を考えると、オオハマボウはハマボウよりも起源地に近い性質を残しているので、ハマボウの祖先系に近い植物なのだろうと思います。

このオオハマボウには、ちょっと面白い特徴があります。
一日花の黄色い花は開花当日に地面に落下するのですが、その後が面白いのです。落ちた花は1日かけてゆっくりとアントシアン色素が合成されて夕日が沈むように赤く変化していきます。
落ちた花を楽しむ。それこそが、このオオハマボウを愛(め)でる醍醐味(だいごみ)だと思っています。

アオイ科の世界的な分布北限の一つであった、観音崎(かんのんざき)のハマボウは、高さ3mほどに育った立派な樹木でした。
近年、再び観音崎に調査に行ったのですが、その株が見当たりませんでした。ハマボウは落葉性なので見落とした可能性も否定できませんが、もしかしたら枯れてしまったのかもしれません。
植物の自然の分布(原生)は変化します。絶滅することもあれば、海流に運ばれた種子が漂着して新たに芽を出したりして――。そうした一進一退を繰り返し、植物の分布は変化しています。
植物の生育している姿は、常に揺らぎ続けています。
そしてハマボウは、アオイ科という熱帯の植物群が東アジアの果てにたどり付いた証なのだと思うのでした。
次回は、『東アジア的アオイ科フヨウ属[その2]』です。お楽しみに。