東アジア植物記 東アジア的アオイ科フヨウの仲間[その3]

東アジアに生育するフヨウ属の中で最も知られているのは、「フヨウ(木芙蓉)」や「ムクゲ(木槿)」だと思います。

それらは、絶海の孤島に生育するヒビスカスのような鳥媒花ではなく、主として昆虫によって花粉媒介される植物です。そのため、赤色を基調とする熱帯性ヒビスカスほど派手な色彩を持ちません。

それでも、ある程度の耐寒性を獲得し、夏から秋にかけて庭や街角に美しい花を咲かせます。東アジアに暮らす私たちにとって、最も身近なヒビスカスと言えるのかもしれません。

フヨウ

フヨウ(木芙蓉)Hibiscus mutabilis(ヒビスカス ムタビリス)アオイ科フヨウ属。学名は、カール・フォン・リンネ(Carl von Linné、1707~1778)による命名です。漢字の「芙蓉」は、もともとハス(蓮)に充てられた名称でした。そのため、区別して「木芙蓉」と記される場合があります。

種形容語のmutabilisとは、「変わりやすい」「移ろいやすい」を意味します。これは、咲き始めから時間の経過とともに変化してゆく花弁の色合いを表したものです。英語のmutabilityも「変化しやすさ」や「可変性」を意味する言葉です。

フヨウは、最大で16cmにも達する大きな花を咲かせます。一日花ではありますが見応えがあり、古くから日本で親しまれてきました。

花色は、白色から濃いローズ色まで幅があり、花弁は薄く、5枚が基本です。また、園芸品種には開花後に花色が次第に移り変わるものもあります。

スイフヨウ

上の写真は、スイフヨウHibiscus mutabilis cv.Versicolor(ヒビスカス ムタビリス)アオイ科フヨウ属です。cv.とは「cultivar(栽培品種)」の略で、栽培品種形容語のVersicolorは「色が変化する」という意味です。

早朝に咲き始めた花は白色ですが、時間の経過とともにアントシアニンの蓄積が進み、ピンク色からローズ色へと変化していきます。それを飲酒によって顔が赤くなっていく様子になぞらえ、「酔芙蓉(スイフヨウ)」という、しゃれた名前で呼ばれています。

突然ですが、江戸時代から続く、日本の古典園芸植物である「変化朝顔」です。上の写真の品種名は、「青/丸立田/芙蓉葉/紫/切咲」と命名されています。注目したいのは、その葉の形状を「芙蓉葉(ふようば)」としていることです。

江戸時代から人々はこうした変化朝顔を楽しみ、この葉の形をフヨウの葉になぞらえて呼んでいました。

このことから、フヨウという植物が江戸時代から人々に愛され、少なくとも当時の園芸愛好家の間で親しまれながら栽培されていたことがうかがえます。

確かにフヨウの葉は大きく、強いインパクトがあります。全体として五角形をなし、先端が浅く切れ込んで尖(とが)る大きな葉で、その幅は30cmにも達します。葉の裏面や葉柄には細かな毛が密生しており、柔らかな触感があります。

上の写真は、先ほどのスイフヨウですが、花弁ごとに色素の蓄積速度が異なるため、ときにはキメラのような不思議な色彩変化を見せることがあります。

フヨウは園芸植物として庭に植えられ、通常は刈り込まれて2mほどに仕立てられます。しかし、日当たりのよい環境で自由に育てると4mほどに達し、家の屋根に届きそうな大株に成長します。

四川省の省都、成都の古鎮(こちん)

フヨウの原生地は中国とされているので、中国植物誌「Flora of China」で調べました。すると中国南東部の江蘇省・浙江省・福建省・広東省・広西チワン族自治区・江西省・湖南省・湖北省・四川省、それにベトナム北部や台湾に分布することが記載されていました。

その多くは沿海省ですが、湖南省、湖北省・四川省といった内陸部にも分布しています。私は、フヨウが雲南にも生育していると考えています。特に四川省の成都は「芙蓉城(ふようじょう)」と呼ばれ、その季節になるとフヨウの花が咲き乱れると聞いています。

植物地理学的に見ると、こうした内陸部での広い分布は興味深いものです。私はフヨウが海岸性の植物ではなく、中国内陸部に起源を持つ植物ではないかと考えています。

フヨウは秋になると、植物学で蒴果(さくか)と呼ばれる果実をたくさん付けます。蒴果とは、雌しべを構成する心皮から形成され、成熟して乾燥すると裂開して中の種子を放出する果実のことです。

裂開した蒴果の中には、毛で覆われた多数の種子が見られます。

「タネ」の世界で長年生きてきた私は、植物の種子に人一倍の思い入れと関心があります。フヨウの種子は長さ2.5mmほどですが、周囲には細かな繊毛が生えています。この繊毛を含めると全体で5mmほどになり、空気抵抗が増すため風散布に適した構造となっています。

このような種子の形態は、水流散布を前提とするヒビスカス類とは大きく異なります。私は、この種子を見るとフヨウが内陸部での生育に適応しながら進化した植物のように思えるのです。

フヨウ属は陽樹であり、林床や密なジャングルで育つ植物ではありません。林縁や自然撹乱が起こった場所など、日当たりのよい開けた環境を必要とします。

河川周辺もその生育環境の一つです。フヨウは、主として風散布を行うようにみえますが、偶然に種子が河川へ落ちて流され、水流によって南西諸島へ運ばれた集団もあったのでしょう。そしてサキシマフヨウのような海岸型の系統へ分化したのかもしれません。

また、フヨウ自身も黒潮によって九州南部沿岸や九州の島嶼(とうしょ)部へ到達している可能性があります。その地域で見られるフヨウの分布は、人為的な植栽とは思えず、自然分布としか思えない生育状況だといいます。

この時期になるとフヨウの果実が乾きいて裂開し、種子が寒風によって飛ばされます。そして、道路の隙間や擁壁の隙間…、あちらこちらに落ちた種子が、やがて芽を出します。私は、そのような実生株を各地で目にしてきました。

フヨウ属を含む祖先系統は、アフリカ大陸とその周辺地域に起源を持つと考えられています。その後、進化という長い歴史の中でアジア各地へ分布を広げ、東アジアではフヨウのような種(しゅ)を分化させたのでしょう。

次回は、いよいよフヨウの仲間のお話も最終回。『東アジア的アオイ科フヨウの仲間[その4]』をお届けします。お楽しみに。

小杉 波留夫

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、「虹色スミレ」「よく咲くスミレ」「サンパチェンス」などの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを積極的に取り組む。定年退職後は、学校の先生に対する園芸指導や講演活動をしながら、日本家庭園芸普及協会の専門技術員として、自ら開発した「たねダンゴ」の普及活動などを行っている。
生来の「花好き」「植物好き」である著者は、東アジアに生息する植物の研究を楽しみに、植物の魅力を発信中。

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