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連載

【第18回】苗が育たない悩みと老化について

文・写真

三橋理恵子

みつはし・りえこ

園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。


※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。

【第18回】苗が育たない悩みと老化について

2018/06/05

苗育ての途中で生育不良になる原因があると、苗は老化します

ここまでタネをまいて苗を育ててきましたが、ときに順調に生育しないこともあります。苗育ての時期に天候不順にならなくても、なぜかうまく育たない。特定の種類だけ育ちが悪いこともあれば、同じ種類の中でも育ちの悪いものがあったりします。その原因を突き止めるのは難しいのですが、いつも似たようなパターンがあれば、解決の道は探せます。生育が止まってしまった苗は原因次第ですが、再び生育を再開させられるケースもあります。

苗が育たない原因の多くは、育苗の過程で何か問題があった場合です。日当たり、風通しなどの環境要因のほか、水や肥料の過不足。枯れないまでも、一度極限一歩手前の水切れを経験すると、その後正常な育ちをしないことがあります。鉢上げのときに根をたくさん切ったり、虫に葉を食べられて光合成のスピードが遅くなったり。育てているうちに生育適温外の季節になってしまったり、土の水はけが悪いなど、何かしら生育不良になる原因があります。特に苗の小さなうちは、ちょっとしたトラブルでもダメージが大きくなります。

中でも土環境の不良は根の生育を阻むので、そのまま株の成長を止める原因になります。良質の培養土を使っていても、土がやがて硬くしまって水はけが悪くなることもあります。土が乾きにくく、表土にコケが生えるのはその典型的な症状です。こんなときは、根鉢をほぐして土を緩めたり、ピンセットや割り箸で表土を軽く耕します。また定植するときに、根鉢の硬い土を少し落としてから、水はけのよい土に植えるといいでしょう。ちなみに硬くしまる土は有機物の少ない用土です。堆肥などを混ぜると、より軟らかな土になります。

硬くしまったポットの土は表土をピンセットなどで耕すか根鉢を出して軽くほぐします

生育が止まってしまった苗はどうなるか。例えば、まだ直径6cmのポリ鉢にある小さな苗も、花を付けることがあります。これは典型的な老化の症状。9 cmのポリ鉢のように生育の進んだものでも、花を付けて一見よく育っているように見えますが、すぐ花は終わり種子を実らせようとします。これは植物の本能として、老化して枯れる前に子孫を残そうとするためです。

(1)生育不良のまま花を付けてしまった株(2)徒長して株元から倒れてしまった苗。幼軸の付け根がねじれていると倒れやすい(3)水やりで土がはねて生育不良になった株(4)肥料不足で下葉が黄色くなり、葉全体が黄色っぽくなった(5)葉が正常に生育していない株(6)寒さで生育の止まった株。この場合は気温が上がれば再び生育します

なんらかのトラブルがあって生育を停止した苗は、茎葉があまり育っていないため、株は貧弱です。ときに葉が縮れたり、黄色っぽくなったり、症状によっていろいろな信号を出します。ポリ鉢から根鉢を出しても、根があまり伸びていないのが分かります。

よく苗の状態を観察して、これまでの苗育ての状況をよく思い出しながら、どんなトラブルがあったのかその原因を探りましょう。自分では正しく育てているつもりなのに苗が育たないということも多いですが、必ず何かしら原因はあります。また、特に多年草の場合、単に生育が遅いだけのこともあります。一年草のように旺盛に茎葉を広げないものも多いので、その種類のペースに合わせて苗育てをします。

苗が育たない症状と、その原因、対処法

■適期まきしていない
→まきどきでないと、苗を育てる時期も適期にならないことが多くなります。苗が小さなうちに花を付けることも

■日当たりと風通しが悪い
→苗がよく育つ日の当たる場所に移動する必要があります

■水やりを怠りがちで、ポットの表土がいつも白っぽく乾いている
→水が足りないと光合成が進まないため、生育が遅れます

■個々の草花の土の酸度の好みを把握していない
→弱酸性、アルカリ性気味を好む草花もあり、土の酸度が生育を左右します。石灰資材の量を調整します

■肥料やりが計画的でなく、あまり与えていない
→肥料分も生育の元となるので、定期的に与えます。逆に与え過ぎると、肥料あたりを起こし生育不良になります

■個々の草花の土や水、肥料の好みを把握していない
→草花の性質に合った管理が大切です。草花の育ちからもある程度は分かります

■鉢上げのときに根をたくさん切った
→根が多量に切れると、回復に時間がかかるほか、雑菌が入り、根が傷む可能性もあります。特に直根性のものは、中心の主根が切れると生育が悪くなります

■鉢上げ後生育が進まない
→まき床の土と鉢上げ後の土の性質が極端に違うと、新しい環境に慣れずに、根の伸びが緩慢になります

■苗育ての途中で水切れさせて、苗がぐったりしおれたことがある
→水切れは小さな苗に負担が大きいもの。一度の水切れでも、回復に時間がかかったり、回復できないことがあります

■土の水はけが悪い。水を与えてもすぐ染み込まず、表土でいったん水が停滞する
→水はけのよい良質の培養土を使っていても、時間がたつうちにだんだん土が硬くしまってきます。根鉢や表土をほぐします。育苗期間の長いものは特に注意します

■根鉢がかちかちに硬まっていて、表土も硬い
→土が固くしまり酸素が少ない状況では、根は呼吸できません。根鉢をほぐして緩めたり、表土を中耕します

■表土にコケが生えていて、いつも湿っている
→土の水はけが悪いです。根がいつも湿っていると、根腐れの危険もあります

■苗が徒長している。または苗の茎が曲がっていて姿が悪い
→茎の徒長は日光不足の証しです。茎葉が乱れてよい苗に育ちません。より日当たりのよい場所へ

■葉が全体的に黄色っぽい
→肥料切れの可能性があります

■下葉から順に黄色く枯れ込んでくる
→特にアルカリ性を好む草花は、土が酸性に傾いていると下葉が枯れ込みます。茎がたくさん出るものは、株元の通風が悪く蒸れている可能性もあります

■茎葉が上へと伸びていかない
→冬季苗は地際近くで葉を広げ、上へと茎を伸ばさないのが普通。暖かくなると茎葉を伸ばします

■ピンチしたら、その後芽が伸びない
→芽の伸びにくい下側の節でピンチしたためです。よい芽の出ている場所で切るのがコツ

■小さな苗なのに、もう花を付けている
→苗が老化しています。老化した原因はさまざまですが、早めに定植して生育を促しましょう

■根鉢の底に根がいっぱいに回っている
→これ以上根も生育できないと、地上部の茎葉の生育もできなくなります。鉢替えするか定植します

■葉が虫や鳥に食害されて少なくなっている
→葉が少ないと光合成量が減るので、生育は進まなくなります

■葉に斑点があるなど、病気の症状がある
→病気があると生育できないので、病変部分は切り取って処分します。殺菌剤でほかを感染予防します

■葉が奇形だったり、斑が出ている
→葉が奇形のものなどは、正常に育たないものもあります

■緑の葉が赤紫色に変色している
→冬季に生育停止すると、葉が赤っぽくなることがあります。べたがけシートなどで保護して、寒さよけをします

■生育適温外の時期、環境である
→冬や夏など苗の生育適温からずれていると、生育を停止します。適温になると生育を再開します。育苗適期の場合、コンクリートの上などでは、日当たりがよいと気温が上がり過ぎて生育を停止することも

■多年草タイプである
→生育がゆっくりで、一年草のように旺盛に生育しない種類もあります

ポリ鉢での根詰まりによる老化は、早めの鉢替え、定植で防げます

生き生きよく生育していた苗が、あるとき生育を止めることもあります。これはポリ鉢の中の根詰まり。根がとぐろを巻いたようにいっぱいになり、それ以上伸びられない状況です。ポリ鉢で育てる苗は、いつも根詰まりの危険があるため、タイミングよく鉢替えや定植をする必要があります。これと比べて直まきしたものは、根の伸びるスペースが広いため、老化しにくいメリットがあります。

老化した苗は、生育が止まっていますが、根詰まりしたばかりでは見た目に変化がありません。よほど根詰まりがひどくならないと、老化は見た目には確認しにくいです。新しい葉が出にくくなるため、根詰まりがひどくなると茎葉が傷んできます。

根詰まりによる老化は、ポリ鉢のサイズを適宜一回り大きなサイズに鉢替えしたり定植して、根の伸びるスペースを作れば防げます。いつもポリ鉢の底から根が飛び出していないかチェックし、ときに根鉢をポリ鉢から出して確認します。個々の苗ごとに根の伸びには差があるので、株の育ちをよく見ながら確認します。すでに根詰まりしてしまった苗は、絡んだ根をピンセットなどで丁寧にほぐして、下向きに伸びられるようにしてから鉢替えや定植します。

定植が遅れると、根鉢の底の部分に根がびっしり張り付いていることがあります
イラスト:阿部真由美

ただし、定植後も老化のリスクはあります。コンテナに定植した場合、鉢のサイズが小さかったり、寄せ植えで株間を詰めて植え過ぎると、早くに老化しやすくなります。また、素焼き鉢に水はけの悪い土で植えたときに、鉢の周囲にだけ根が空気を求めて張り付いて、内側に根が伸びられない症状が出ることもあります。

特に一年草草花の苗では、少しの生育不良も苗を老化させる原因になります。基本的には老化させず、スムーズに苗を育てることが何より大切です。場合によっては、老化後生育を促せることもありますが、この失敗をまた繰り返さないように、次への糧としましょう。

さらにタネまきからの苗育てでは、1回にたくさんの苗を育てます。それらが100パーセント全て同じように順調に育つわけではありません。F1品種など生育のそろう条件のあるものは別として、固定種では見た目は同じようでも遺伝子はばらばら。他の生物と同じで、中には不良な遺伝子を持っていて、途中で枯れてしまう運命にあるものもあります。自然界で植物が多量にタネをばらまくのも、全てが育ち花咲かせタネを付けて世代つなぎをするわけではないが故。ほんの限られた条件のよい個体だけが生き残る世界です。

販売されている種子の場合は生育のそろいがよいものがほとんどですが、個体によって生育の旺盛なものもあれば遅いものもあり、生育はさまざま。生育が少し遅いだけで後からよく育ってたくさんの花を咲かせるものもあり、生育不良ではないケースもあります。

同じときにまいたものでも、その後の生育に差が出ることも多いです

苗たちの成長は1日では目に見えませんが、それでも1週間単位ではかなり成長します。苗が順調に育っているのか、それとも何か問題を抱えているのか、よく見極めることが大切です。毎日の水やりのときによく観察して、苗たちの成長をしっかり見守りましょう。

次回は「育てた苗をどう植えるか、植栽プランを立てましょう」を更新予定です。お楽しみに。

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