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世界球果図鑑[その45] カヤ、イヌガヤ属とコウヤマキ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

世界球果図鑑[その45] カヤ、イヌガヤ属とコウヤマキ

2023/05/02

これまで45週を使い、世界球果図鑑を記述しました。そろそろ球果植物の長い旅を終えようと存じます。裸子植物は、コケ植物やシダ植物から被子植物への橋渡しをした植物です。多くの種が絶滅し、世界中に800種に満たない種属しか原生していません。コケ植物やシダ植物の数が、それぞれ1万種を超えることを考えると、その数はあまりに少ないのです。今週は、イチイ科の続きからです。

イチイ科の植物が、全て毒を持っているとは限りません。この植物は、材が高級木材として利用でき、実から油がとれ、種子は私の大好きな「ナッツ」です。

No.113 カヤTorreya nucifera(トリーア ヌキフェラ)イチイ科カヤ属。漢字で榧(カヤ)と書きます。この植物のことは、2018年9月18日に公開した『悠久の榧樹(カヤ)前編、後編』に詳しく書きましたので、割愛します。

カヤは、種鱗片(しゅりんぺん)が仮種皮という付属物となって種子の全部を包み込みます。部分的に種子を包み込むイチイと比べ、子房で種子になる胚珠を全て包み込む被子植物に、より近づいたように思えます。

カヤによく似ていますが高木にならず、実もおいしくないイヌガヤという植物があります。

No.114 イヌガヤCephalotaxus harringtonia(ケファロタクスス ハーリングトニア)イチイ科イヌガヤ属。属名のCephalotaxusとは、Cephalo(接頭語で「頭部」)+taxus(イチイ属)の合成語でシーボルトの命名です。種形容語のharringtoniaは、この種を最初に栽培したイギリスのHarrington(ハリントン)伯爵に献名されています。

イヌガヤ属は一時、単独の科であるイヌガヤ科とされてきました。近年の遺伝子解析によってイヌガヤは、イチイ科に含まれることになりました。この植物は、アジアの温暖な照葉樹林帯など、暗く湿った林床に生える常緑の針葉樹です。私が住んでいる横浜の雑木林でもよく見ます。生息範囲は、北海道から九州のほか、朝鮮半島、中国中部などです。

イヌガヤは、直幹の高木ではなく、幹が斜上するような低木で、通常は5m程育ちます。葉の長さは、4~5cmとカヤに比べると長く、2列の互生(ごせい)に付き、先が尖(とが)る線形をしています。濃い緑色でツヤのある葉は柔らかく、触っても痛くはありません。カヤは尖って痛いので、フィーリング(感触)が対照的です。

イヌガヤの英語名は、Japanese plum yewといいます。Yewとは、イチイのことでした。実は、翌年の秋に赤紫に熟します。カヤの実と同様においしいかと思って種子の味見をしてみました。それは美味ではなく、苦くて渋くてすぐに吐き出す代物です。英文の記述を読むと、致命的ではないが有毒と書いてありました。食べなくてよかったです。

イヌガヤには、ハイイヌガヤCephalotaxus harringtonia var. nanaイチイ科イヌガヤ属という変種があります。それは、日本海側の積雪地帯に対応した、矮性(わいせい)のイヌガヤです。変種名のnanaとは、小さいという意味です。ハイイヌガヤの幹は、雪の重みに対応して地面にはって伸び、樹高も1~2mにしか大きくなりません。

このシリーズの中で、「種レベル」においては日本固有のゴヨウマツ、ヒノキ、サワラなどを、「属レベル」では日本固有のアスナロ属などを紹介しました。『世界球果図鑑』の最後を飾るのは、現世の裸子植物の中では「科レベル」で日本と朝鮮半島の済州(チェジュ)島にしか残っていない植物です。それは、世界で1科1属1種しかない希少な樹木です。

No.115 コウヤマキSciadopitys verticillata(スキアドピティス ベルティシラータ)コウヤマキ科コウヤマキ属。コウヤマキ科は、白亜紀後期から化石が見つかっていて、その時代に多くの種と広い分布域を持っていました。その後の気候変動や氷河期に衰退し、現在では温暖で降水量の多い日本の山地が、この樹種のついのすみかとなりました。

この植物は、2枚の葉が合着した輪生の葉を持ち、円すい形の樹形も美しい高木です。木質の球果は2年後に熟し、種子を放出しますが、通常は樹上に付いた状態になります。

扇型の種鱗片で構成されるコウヤマキの球果は、木質のバラのようなシックで美しい球果です。コウヤマキも、2016年2月2日に『東アジア的美樹 コウヤマキ』で公開していますので詳細は省きます。

2019年2月12日から始まった世界球果図鑑。長い間、球果植物の話をお読みいただきありがとうございました。裸子植物のあらましが理解できたでしょうか?世界球果図鑑の最後が、日本固有のコウヤマキであってよかったです。球果の形状からその植物を調べるのは少し長大過ぎる内容でした。世界の球果だけをまとめた総集編が必要です。それは、折を見て掲載しますので、それまでお待ちください。

次回は「センニンソウ属[その1] ハンショウヅル(半鐘蔓)」です。お楽しみに。

JADMA

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