個人育種家ストーリーズ ハボタン産地 兵庫県の軌跡

冬の景色をそっと彩るハボタン。その一株一株に生み出した育種家の熱い想いが込められています。個人育種家が長い時間をかけて積み重ねてこられた工夫や挑戦から、今の豊かなハボタンの世界が広がり、こうして生まれた多彩な品種は、全国のマーケットを広げる力にもなり、多くの人に親しまれています。

ハボタン生産量日本一の兵庫県は、個人育種が盛んな地域としても知られ、ハボタンのマーケット拡大に大きく貢献してきた育種家の方々が数多く活躍しています。今回は、その兵庫県でハボタン生産を牽引する個人育種家である「中山園芸」中山さんと「Hanayoshi」の大塩さんを取材しました。

兵庫県にまだハボタンの生産者が少なかったころから、原種を求めて世界を歩き、個性あふれる品種を生み出してきた「中山園芸」の中山さん。

そして、脱サラをきっかけに育種の道へ進み、“光る葉”という特別な魅力を備えたハボタンを育て上げた「Hanayoshi」の大塩さん。

兵庫県のハボタンづくりを支えてきた個人育種家のお二人が語る、それぞれのハボタンへの熱い想いとこだわり、そして品種づくりの裏側にあるドラマをお届けします。

「中山園芸」の中山さんとは

「中山園芸」の圃場の様子

圃場の様子

中山さんが育種を始めた当時、兵庫県にはまだハボタンの産地はありませんでした。そんな中、フラワーセンターの売店で目にした固定種のハボタンを見かけ、「ハボタンって面白そうだな」と思ったことが育種へのきっかけだったそうです。

農業系の大学では花を専攻しました。卒業後は、農薬や除草剤を扱う大阪の会社に就職しましたが、2年間の勤務を経て「やっぱり花を作りたい」という強い想いが募り、会社を辞めて兵庫県で育種の道に進みました。

毎年、コロンビアやパプアニューギニア、コスタリカなど世界各地を巡り、トレッキングの傍ら原種を探し歩いてきたという中山さん。取材中にも、旅先で出会った植物のエピソードを語ってくださり、その言葉からは植物への深い愛情と探究心がひしひしと伝わってきました。

中山さんのハボタン育種秘話

中山さんがハボタンの育種に取り組んだのは、かつてサカタのタネが販売していた固定種「パラマウント」がきっかけでした。

ハボタン「パラマウント」

サカタのタネが販売していた固定種のハボタン「パラマウント」

当時「パラマウント」は、性質が完全には固定されていなかったため、切れ葉から丸葉、ウェーブまでさまざまな葉形が現れる品種でした。ユニークな葉形で魅力はあるものの、ばらばらな葉形の形質のままでは、思うようなポット苗販売ができないと考えました。

ハボタン「パラマウント」のさまざまな葉形の様子

ハボタン「パラマウント」のさまざまな葉形の様子

そこで、中山さんはさまざまな葉形のハボタンの中から理想的な葉形、刻みが細かい切れ葉タイプを選抜し、品種を固定化することにしました。これがハボタンの育種の始まりとなり、一つの品種に仕上げるには、約10年もの長い年月がかかります。育種の道へ進んだ最初の2年間について、中山さんはこう振り返ります。

「お金がなくて、同じもんばっかり食ってましたよ。自分はそれでもよかったんです。逆にそのときにお金があったらあかんと思って。しんどい目、つらい目に遭いながらやっていれば、いずれよいものが出来るんちゃうか、何とかなる!と思って、育種を続けました」

理想の性質が安定して出るようになるまで、栽培と選抜を何度も行い、地道な作業を繰り返すのが育種家の仕事。「ハボタンのどんなところに魅力を感じて育種に励んでいるのか?」と問いかけると、中山さんは「色、高さ、葉形など豊富なバリエーションを持った個体が毎年異なる形で現れるところ。こんなに色々な性質が出てくる品目はハボタン以外にない」と語ってくれました。

ハボタンの種

ハボタンの種

こだわりが詰まったハボタン「マジックロード」にあえて“足(茎)を残す”理由とは

ハボタンの面白さに魅了され、育種の道を歩み続けて生まれたもう一つの品種が「マジックロード」です。一般的な品種に比べ「マジックロード」は、少し足(茎)があるのが特徴です。

少し足(茎)があるのが特徴のハボタン「マジックロード」

少し足(茎)があるのが特徴のハボタン「マジックロード」

「わい化剤を使えれば草丈を低くすることはできるけど、コンパクトになり過ぎてポットにひっついてるような草丈の低いものだと、花壇などに植え付けるときに手前にしか使えんのですよ。 そうなると、植栽が平面的に見えてしまうことがあるんです。だから、私はぺちゃんこな苗になるのは好きやなくて。足(茎)が少しあれば、普通の深さで植えれば後ろにも使えて、深めに植えれば手前にも使える。ハボタンは深めに植えても心配いらんよ。だから、足(茎)があるほうがええと思ってるんです。」

足(茎)があることで、花壇や寄せ植えをするときに植える深さによって、手前にも奥にも植えられる

足(茎)があることで、花壇や寄せ植えをするときに植える深さによって、手前にも奥にも植えられる

植える深さによって“手前・奥どちらにも使える”という自由度の高さ。中山さんは、そのメリットを最大限に活かすため、あえて茎の高さを残すことにこだわってきました。

そして「マジックロード」には、もう一つ欠かせない魅力があります。それは「葉脈(ベイン)の美しさ」です。葉脈が、道のように見えることからその名がつけられました。

「マジックロード」ならではの尖った葉形、そして葉脈の美しさ。この二つの性質が安定して現れるように固定するのは、決して容易ではなかったと言います。

フリルがかった葉と葉脈までもが美しいハボタン「マジックロード」

フリルがかった葉と葉脈までもが美しいハボタン「マジックロード」

固定種「パラマウント」との出会いから始まったハボタン育種。中山さんの探究心と情熱を重ねる中でたどり着いた「マジックロード」の美しさ。あくなき探求は、いまもなお留まるところを知りません。中山さんの手によって研ぎ澄まされた「美しさを追い求めたハボタン」の魅力を、ぜひお楽しみください。

「Hanayoshi」の 大塩さんとは

「Hanayoshi」の圃場の様子

圃場の様子

中山さんとともに兵庫県のハボタンマーケットを盛り上げてきたのが、「Hanayoshi」の大塩さんです。大塩さんは、照り葉の美しさが際立つハボタン「光子」を生み出した育種家として知られています。

大塩さんは26歳で脱サラし、新規就農の道へ。そのころは、周囲でハボタンの栽培を始める人が増えていた時期で、中山さんをはじめとする個人育種家の方々から教えを受けながら育種に挑戦していました。

しかし、就農してからしばらくは苦労の連続でした。さまざまな品目に挑戦したものの、市場ではなかなか相手にされず、何を出しても思うように売れない日々が続いたそうです。多額の借金を抱え、家族に心配されるほどの厳しい状況の中、ハボタンだけはなんとかお金に替わっていったといいます。

それでも「周りと同じことをしていたら食べていけない」そんな危機感から、大塩さんは「差別化できるようなオリジナル品種」の育種に力を注ぐようになりました。

光る葉と感謝の思いを込めたハボタン「光子®」誕生秘話

ある日、育種を進めている中で偶然現れた照り葉を持つハボタンが気になって試しに交配することにしました。ところが、大塩さんはその後、すっかりその存在を忘れてしまっていたそうです。

次の試作シーズンが始まると、当時仕事を手伝ってくれていたお母さまが、その照り葉のハボタンの莢をとって、種をまいてくれていました。これが、のちの「光子」につながる育種の始まりでした。

発芽したばかりの苗を見て「これは面白い!」と感じた大塩さんは、翌年も選抜を続けました。だんだんと照り葉を持つ株の割合が増えていく圃場を見て、園芸好きのお兄さまも「これはすごいことになるんじゃないか」と大塩さんの背中を押してくれたそうです。

葉の光沢(ツヤ)が美しいハボタン「光子®ロイヤル」

葉の光沢(ツヤ)が美しいハボタン「光子®ロイヤル」

そこから約5年間、交配を重ね、やがて9割以上が照り葉になるまでに改良が進み、満を持して販売がスタートしました。すると、照り葉のハボタンは初動から好調で、荷受けトラックが市場で荷下ろしする前に売り切れてしまうほどの人気となりました。

「トラックが入る前に売れてしまうと市場の方に言われて、そんなん言ってもらえるんや!って感動しました。家もハボタンの『光子』が建ててくれた感じですし、人生が変わりました。母が種をとってくれたことと、兄の言葉があったからこそですね」と大塩さんはうれしそうに語ります。

さらに、この品種名「光子」には特別な想いが込められています。

「母親の名前が光子なんですよ。種とりしてくれたのも母ですし、母がいなかったらこの品種も誕生してなかったので。変わった名前じゃなくて、覚えやすいシンプルな名前にしたかったんです。」

こうして、照り葉のハボタンは、葉が「光っている様子」と種をとってくれたお母さまへの感謝を込めて「光子」と名付けられました。

左からハボタン「光子®ロイヤル」紫、黒、白

左からハボタン「光子®ロイヤル」紫、黒、白

本当によいものを適正な価格で ── ハボタン「光子®」が築いた道

ハボタン「光子」が誕生した当時、ハボタンの単価は決して高いものではありませんでした。そんな中、大塩さんは思い切って相場を上回る価格で販売することを決断します。周囲からは強い反対もありましたが、「それだけの価値がある品種だ」と信じて販売を決行したところ買い手が減ることはありませんでした。

この思い切った決断は、生産者が自身のオリジナル品種の開発に見合った価格を設定し、その価値を守っていくきっかけにもなりました。こうした意識の広がりで、兵庫県という産地全体が次第に「ブランド産地」として認識されるようになっていったのです。

「Hanayoshi」の大塩さん

「Hanayoshi」の大塩さん

大塩さんは、当時をこう振り返ります。

「こうして価値の高いハボタンの品種を相応の値段で販売できる環境になったこと、それが産地のブランド化にもつながったことは、兵庫県にとって大きな貢献となったのではないか」

また、産地として成長した背景については「中山さんの存在も大きいです。最初にずっと引っ張っていってくれた中山さんがおったからこそ、この産地があるんじゃないかと思います」と語ってくれました。

そして、今後の育種について、こうもおっしゃっていました。

「ハボタンは、1年に1回しか交配のチャンスがないから、すごく焦ります。今も『光子』の足元を少しずつ強くするなどの改良を続けているところです。5年以上前に『育種はそんな甘くないですよ』と言われたことがあるんですけど、今になってその言葉が身に染みています。一流メーカーさんでもバンバン品種を出せないのに、素人が簡単に作れるわけないよなと。その壁の高さにガツンとやられていますが、それでも乗り越えたいですね。」

照り葉の輝きが美しいハボタン「光子」は、大塩さんが家族と共に長い年月をかけて育て上げた逸品です。選抜を重ねて磨かれたその美しさは、市場でも高く評価を受けています。冬を彩る一株として、ぜひ手に取ってお楽しみください。

まとめ

兵庫県では、多くの生産者が互いに刺激を受けながら育種や栽培技術を磨き、尊重し合うことで産地全体のレベルが引き上げられていきました。さらに、品種の価値に見合った価格で販売する意識が広まったことは、産地としての信頼とブランド力の確立にもつながっています。

兵庫県のハボタンは、こうした生産者同士の支え合いと挑戦の歴史の中で育まれてきたものです。その一株一株には、産地全体で積み重ねてきた想いと技術が息づいています。

今回ご紹介した中山さんの「マジックロード」、大塩さんの「光子」シリーズの苗は、いずれもサカタのタネ オンラインショップで取り扱いがございます。ほかのハボタンとはひと味違う、思いの詰まった個性的な品種をぜひご家庭でお楽しみください。

文・写真:園芸通信編集部

関連商品(サカタのタネ 公式オンラインショップ)

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