小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
秋はあけぼの センブリとその仲間
2015/11/06
「春はあけぼの…」あまりにも有名な『枕草子』の出だしですが、今回のお題はどこか間違っているような印象を受けたかも知れません。それは秋になると静まり返った高原で、リンドウ科のアケボノソウが妙な花を咲かせるのです。
リンドウ科には多彩な役者がそろっていて、愉快な植物が多いのです。北アメリカ南部に自生するリンドウ科のユーストマEustoma grandiflorumは、日本のサカタのタネによって全世界で愛される切り花界のセレブになりましたが、東アジアにもそれに負けない親戚筋が野山に生えています。
リンドウ科センブリ属Swertia (スェルティア属)、Swertia bimaculata。アケボノソウは、日本を始めとするユーラシア大陸の東岸にそってヒマラヤにまで分布する植物。どことなくトルコギキョウに似ていて、交雑育種を企てた人がいるくらいです。しかし「種間交配」ならまだしも、属が違う「属間交配」は難しいでしょう。
この仲間は当年に発芽し、冬を超え次の年に花を咲かせます。そして、タネを落とすと枯れてゆく二年草が多いのです。リンドウ科は皆、面白い植物ばかりです。今回のコラムでご紹介するのはその一端に過ぎません。
秋になると山地ではアケボノソウが咲きます。木々に直射日光を防いでもらえる、谷筋や湿原など湿った場所がお好きなようで、湖に流れ込む小さなせせらぎに生えていました。葉に3つの脈が目立ち、10cm程の大きな葉を対生させるのは、間違いなくリンドウの血脈です。
アケボノソウSwertia bimaculataリンドウ科スェルティア属。種形容語のbimaculataは2つの斑点を意味します。この緑の斑点は蜜線で、いつもアリなどの虫が集っています。このめしべはトルコギキョウによく似ています。交配した人がいたとか?
センブリは東アジアに広く自生する二年草です。日本でも山地の草地に生えますが、株が30cm以下と小さいためあまり目立ちません。しかし、その薬草としての効能は昔から知られていて、日本の三大民間薬のひとつにされています。センブリSwertia japonicaリンドウ科スェルティア属。その別名は、当に(まさに)薬で「当薬」と言われます。
センブリはタネを落として増えます。1株を見つけるとたいていその周りにもセンブリをいくつか見つけることができます。薬草は開花期に収穫をするものですが、植物ラブな私には、タネを落とす前の株を採取することはできません。この植物の薬効は健胃の他、髪を健康に保つといわれます。絶滅危惧種である、私の頭の毛を何とかしたいと思い、葉を一枚失敬して口に入れました。千回振り出しても苦いといわれるその味わいは、嫌なものではありませんでした。
ハナイカリHalenia corniculata(コニキュラータ)ハレニア属は、東アジア北部に生える多年草で、種形容語のcorniculataとは小さな角を意味し、花が4つの白い距を伸ばすことを指しています。この距をいかりに例えた名前です。葉は対生で3本の脈があり、リンドウ科の血脈を感じます。
ハナハマセンブリを見つけた時、胸がドキドキしました。植物の構造はトルコギキョウにそっくりです。日本にその仲間が自生していたと思いました。おまけに、とんでもなくキュートです。残念なのはその大きさで、草丈は10cm程度、花の直径は1cmに満たないのです。
ハナハマセンブリCentaurium tenuiflorum(テヌイフロラム)リンドウ科センタウリウム属。沖縄中部、畑の畦で見つけたのですが、それは地中海地方原生の植物で、日本に移住してきた植物らしいのです。種子繁殖する一年草みたいで夏に開花していました。tenuiflorumという種形容語は、葉が細いということを意味します。