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マオウとモクマオウ[中編] モクマオウ属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

マオウとモクマオウ[中編] モクマオウ属

2024/05/21

「マオウ」属は、裸子植物の低木でした。「モクマオウ」と呼ばれる植物があるのですが、形態が似ているだけで、被子植物です。似て非なるもの、縁が遠い赤の他人です。中編と後編は、マオウ属の高木に見える「モクマオウ」のお話です。

海岸線の美しさを「白砂青松(はくしゃせいしょう)」と表現することがあります。それは、日本独特の景観ではないかと思います。クロマツとアカマツは、東アジアの中でも日本の海岸線などを分布の中心にしているからです。マツ属は、わずかな例外を除き、北半球に生える植物といえます。マツ属は、基本的に南半球には生えていないので「白砂青松」を見ることはないのですが、似たような樹木が海岸を美しく飾る風景はあります。

北米で最も美しい海岸に選出されたことがある、Waimanalo Bay Beach(ワイマナロ ベイ ビーチ)です。「白砂青松」のように美しい海岸風景の正体は、マツ属の針葉樹のようで、針葉樹でない植物。それが、モクマオウです。

モクマオウ科の植物は、被子植物に属し、オーストラリアと周辺の島々、熱帯アジアに原生する高木で、20m以上になります。モクマオウたちは、南半球、熱帯亜熱帯地域の貧栄養環境でも育ち、マツ属のような生態的役割を担っています。貧栄養、塩害に強く、海岸線の防風林や緑化に利用されています。

モクマオウ科は、4属という説、1属のみという説もあり、はっきりしません。この植物記では、4属説を取り、2属の説明をしたいと思います。種属は、意外と大家族のようで50種以上と見積もられています。モクマオウたちは、オーストラリアの乾燥地に主に生息するため、東アジアに住まう私たちにはあまりなじみがありませんが、日本でも沖縄など南西諸島にも植えられているので、知っている方も多いと思います。

モクマオウたちは、前編で紹介したマオウ属のように葉が退化して節ごとにその痕跡があるだけです。松葉のようにみえるのは、葉ではなく枝です。モクマオウも乾燥地に生えるマオウ属のように、枝で光合成する植物です。モクマオウのその姿は、高木になったマオウのように見えるので「モクマオウ」という和名が付いたのだと思います。

トクサバモクマオウ

トクサバモクマオウCasuarina equisetifolia(カスアリナ エクイセティフォリア)モクマオウ科モクマオウ属。東南アジア、太平洋の島々、オーストラリア北部に生息する常緑高木です。属名のCasuarinaとは、インドネシア語もしくは生息地の言語で、飛べない大きな鳥であるヒクイドリ(kasuari)を表します。これは、モクマオウ属の細長い枝が、ヒクイドリの両端にある、硬く鋭い羽に似ていることにちなみます。

トクサバモクマオウの幹は直立するのですが、枝は全体として下垂します。さらに細長い枝も垂れ下がり、トクサのような節が見られるのです。種形容語のequisetifoliaもトクサの葉を表しています。

トクサバモクマオウは雌雄同株ですが、雌雄に異なった花を付けます。花期は6月ごろに開花します。雌花は、短い枝先に付き、針葉樹の球果のような果実になりました。卵型の堅い木質の果実は、長さ2cm幅1cm程度でカシュリアナと呼ばれ、フラワーデザインなどに使われたりします。

カニンガムモクマオウ

カニンガムモクマオウCasuarina cunninghamiana(カスアリナ カニンガミアナ)モクマオウ科モクマオウ属。ニューギニア、オーストラリア北東部の川岸や沼沢地など日当たりの良い場所に生息しているモクマオウ属です。日本では、植物園の植栽や沖縄等に植えられています。それは、モクマオウの中でも大きくなる樹種で30m程度に成長します。

カニンガムモクマオウの果実です。トクサバモクマオウの果実に比べ、小さく丸い形で、長さ1cm、幅0.7cm程度の大きさです。乾燥すると口が開き、小さな種子を放出します。種形容語のcunninghamianaは、この植物の模式標本を採取した、イギリス人植物学者のAllan Cunningham(アラン・カニンガム、1791~1839)にちなみます。

次回は「マオウとモクマオウ[後編] アロカスアリナ属」です。お楽しみに。

JADMA

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