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人々の暮らしと一年草 シノグロッサム

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

人々の暮らしと一年草 シノグロッサム

2016/01/28

厳寒期、多くの植物は閉店休業し春の準備をしています。冬枯れの野山に行くと、それは、それなりの楽しみを見つける事ができるのですが、現在は、取材中なのです。今回の話題は、一年草と言う私達には馴染みの深い植物群と人々の暮らしについて考えてみたいと思います。

東アジアの都市国家として成り立った中国は、主に武力が支配と被支配を決めてきました。甍(いらか)の波がどこまでも続く「麗江古城」。「城」という中国語は日本語と意味が違い、城壁で囲まれた場所という意味を持ちます。城壁は内部に住まう者たちの防御線だったのです。古い都市には決まって城壁があり、昔ながらの人々の暮らしを見ることができます。

雲南省麗江は標高2400mの高原に位置し、日本人によく似た少数民族「納西(なし)族」が暮らしています。麗江は古い町で、新石器時代からの人々の営みの跡が残されているといいます。

画像はトンパ文字という象形文字で、船が追い風に乗っているようすを表します。おそらく順風満帆という意味でしょう。この地域には漢字とは違う象形文字があり、多様な言語文化があることを今に伝えています。

この辺りの高原は夏になるとシノグロッサムCynoglossum amabileムラサキ科オオルリソウ属が咲きます。種形容語のamabile(アマビレ)とは美しいことを表します。一年草である、この種の自生環境は2000~3000mの高原ですが、農地の周辺や林道の縁など人の手の入った場所で見られ、自然の原野や山林には見当たりませんでした。人によって開発された里山は、特に日当たりがよく、競合する宿根草などが少ない場所です。そして、なにより栄養塩類が豊富な環境となります。それは、人や家畜によってアンモニアなど高濃度のチッ素(N)や煮炊きによって草木灰、カリ(K)が環境に放出されます。魚や肉食により骨を捨てれば植物に必要不可欠なリン(P)が大地にまかれます。

里山はどこでも、人の営みによって日当たりがよく管理され、植物の成長に必要な栄養塩類がたくさんあります。大地に肥料を恵んでくれる家畜の姿が見えますね! 納西族の子どもは、カメラを向けたら恥ずかしがって父親にすがっていました。

コケ、シダ、裸子植物など起源の古い植物は、ほとんどが宿根草です。私たちがよく花壇に植える一年草は古い植物群に見当たりません。そのような意味でも一年草のルーツは新しいものと思います。里山の環境は、成長が早く、生活サイクルの短い一年草に有利なのです。その一年草の中でも、人と共に生活圏を広げる雑草は、最も進化した植物かも知れません。そのように考えると、私達の生活を支える穀物や野菜は雑草の中から選抜されてきたのだと思います。

シノグロッサムは、夏に麗江の高原を一面青く染めます。日当たりを特に好むこの植物は、野趣ある独特の瑠璃色の花を咲かせます。よく見るとピンク、ライドブルー、ホワイトなどの花色も確認できました。シノグロッサムは、中国の高原が原産の秋まき耐寒性一年草。和名をシナワスレナグサといいます。

JADMA

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