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ハゲイトウ[前編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

ハゲイトウ[前編]

2022/10/11

ハゲイトウは夏の炎天下において、葉が明るく派手で魅力的な色彩に染まり、驚くようなパフォーマンスを披露します。気温が35~40℃になろうとも「夏バテ」「熱中症」に無縁の耐暑性を持ち、乾燥にも強く観賞用以外にさまざまな利用方法がありそうです。ハゲイトウのことを少し深掘りしてみました。

ハゲイトウAmaranthus tricolor(アマランサス トリカラー)ヒユ科ヒユ属。古くは「雁来紅(がんらいこう)」ともいわれ、ガンやカモなどの渡り鳥が飛来する10月ごろに色づくとされていました。現在では、早くから色づく品種の選抜が行われ、7~8月の高温期に葉がこのように色づくので「雁来紅」という名は、あまり使われなくなりました。

ハゲイトウは英語で、Joseph’s coat(ジョセフズ コート)などともいわれます。このJosephは旧訳聖書に出てくるヤコブの子、ヨセフのことです。ヤコブは誰よりも彼を愛し、派手な衣装「tricolor(トリコロール)」を身に付けさせたといいます。種形容語のtricolorは、フランス国旗を想像しがちですが、単純に三色という意味を表します。ヤコブが与えたヨセフの派手な衣装を鮮やかな葉色に例えたとされますが、キリスト教の国ではハゲイトウは何か特別の意味が含まれているのでしょうか?花ではなく葉を観賞するものとしてSummer poinsettia(サマーポインセチア)とも表現される場合があります。

春に種をまいて夏に楽しむ草花は、熱帯域に故郷を持つ植物であると相場が決まっています。ハゲイトウの原生地は、熱帯アジアということですが、地域は定かではありません。この植物は、異名にAmaranthus gangeticus(アマランサス ガンゲティカス)という名を持ちます。種形容語のgangeticusは、インドのガンジス川という意味です。抜群の耐暑性を持つハゲイトウです。gangeticusという文字に説得力があります。

上の写真は、東京都お台場の花壇を「たねダンゴ」で作った様子です。ハゲイトウは生育が早く、真夏のパフォーマンスが素晴らしくよいので、ボーダー花壇の背景に好適です。

5~6月に種をまいて、7~10月まで花壇を作ることができる「花絵の具 たねダンゴミックス春まき」には、ハゲイトウの種も混ぜました。「たねダンゴ」については『東アジア植物記』でも触れていますのでご興味がある方はそちらをご覧ください。いつでもハゲイトウは、夏花壇に欠かせないアイテムの一つ。上の写真のように成長した花壇を見た人は、一様に「ハゲイトウを見直した」といいます。

ハゲイトウは、苗を育てて花壇に植えるより、種を直(じか)まきにした方がよい生育をします。この植物は直立して生育し、摘心をしないと、枝分かれはしません。そしてかなり背が高くなり、人間の背丈ほどに伸びます。軽い土では、これを支えることができないので、赤玉土のようにしっかりした重い土で栽培しましょう。

大暑、猛暑、酷暑、炎暑などやりきれない暑さを表す漢字がたくさんありますが、そうした言葉は、ハゲイトウには通じません。夏の季節によいことだらけの植物なのです。しかし、寒さにはめっぽう弱く10℃以下の気温では「ごめんなさい、もう終了です」となります。ハゲイトウは寒さに弱い他にも、欠点がないわけではありませんので、説明しておきます。

このような「茎腐れ病」が発生する場合があります。順調に育っている株が、ある日突然しおれるのです。これは、ゴボウのような根がフニャフニャと腐る病気です。長年ハゲイトウを育てた経験から、植えた株の5%程度は、この病気が出ると思います。他に広がることは少ないので、 抜き捨てるだけで大丈夫です。いつも土壌消毒はしません。少し余分に苗を育て、発生したら引き抜く対応でよいでしょう。病気の他に、虫ではバッタが葉を食べるので、見つけたら取り除きます。

ハゲイトウは、花を楽しむ植物ではなく、色づいた葉を楽しむ、観葉植物です。ハゲイトウの花は、葉腋(葉の付け根の部分)と茎の間に丸く固まった花序ができます。その中に、密生して咲くのです。それは、とても小さく目立ちません。

ハゲイトウの花を、見る機会は少ないと思います。驚くことにハゲイトウは雌雄異花でした。それぞれの花被片はミリ単位、先が尖り膜質です。雌花には白い雌しべが、3本あるように見えます。雄花には黄色い葯(やく)をもった雄しべが3本備わっています。

秋になるとその花序に種が実ります。種は直径1mmほどで、黒色でツヤツヤです。たくさん集めて触ると、ツルツルした触り心地のよい種です。そのままにしておくと、次の年に「こぼれ種」でけっこう発芽する強い生命力をハゲイトウは持っています。

しかし、この素晴らしいハゲイトウという植物は、日本の園芸で十分に活用されていると思いません。それは、種をまいて育てる植物であり、苗物としての利用が難しいからなのかもしれません。

次回「ハゲイトウ[後編]」では、ハゲイトウを観賞用としてだけでなく、他の利用方法を考察してみたいと思います。お楽しみに。

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