小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
クルミ科[前編] クルミ属
2024/12/10
思いの外、今年の秋は短く、冬の季節になりました。春夏に咲いた花たちは、秋冬に果実を付け、今は実りの季節です。果実に関するシリーズを少し続けます。今回の植物記は、私も大好きな木の実の一つ、クルミを取り上げます。
クルミのご先祖様は、サイズが大きく、堅くて厚い殻を持つオオバタグルミJuglans cinerea var. megacinerea(ジュグランス シネレア バラエティー メガシネレア)クルミ科クルミ属と考えられています。変種名のmegacinereaは、巨大な灰色という意味です。オオバタグルミは、日本、ヨーロッパ、ロシア、北米などの更新世※と呼ばれる地質時代の地層から化石が見つかるのですが、その後、各地で絶滅しました。現在は、北アメリカの東北部に末裔(まつえい)が生き残っています。大型哺乳類がたくさん絶滅したように、現在のクルミ属は、サイズが小柄に進化しました。クルミ属は、日本を含め北半球と南アメリカ大陸に20種ほどの種属が分布しています。
※更新世…地球に地殻が形成された後、人類の歴史上では旧石器時代にあたる170万年前から1万年前までの氷河時代を指す。
通常、私たちが食べているクルミは、Juglans regia(ジャグランス レギア)クルミ科クルミ属という植物の実です。それは、日本でペルシャグルミやセイヨウグルミ、カシグルミとも呼ばれています。種形容語のregiaは、「王」の意味です。その栽培された歴史は長く、原生地は不明ですが、起源と多様性の中心地は中央アジア、特にイランとされています。クルミは漢字で「胡桃」と書きます。「胡」とは異民族を意味する文字ですが、特に西域異民族を意味していることが多いです。故にペルシャグルミという名前になりました。
クルミ属は皆、やや涼しい気候を好み、大きな羽状複葉(うじょうふくよう)の葉を付ける落葉の高木です。世界的に分布するクルミ属ですが、東アジアには、マンシュウグルミJuglans mandshurica(ジュグランス マンドシュリカ)クルミ科クルミ属が原生しています。
日本には、北海道から九州までの山地の湿度が高い場所にオニグルミとヒメグルミが生息しています。オニグルミJuglans mandshurica var. sachalinensis(ジュグランス マンドシュリカ バラエティー サハリエンシス)クルミ科クルミ属。属名のJuglansは、ローマ神話の天空神「Jupiter(ユーピテルまたはユッピテル)」と「核果」「殻果」「堅果」を意味するラテン語の「glans」を合わせた合成語です。おいしいクルミの実は、神様の供物ということでしょうか?
オニグルミは、5~6月に同じ木に雌花と雄花が開花します。雄花は垂れ下がり、雌花は直立して2本の赤い花柱を展開します。雌花は、目立たず小さいので注意して観察しないと気が付かないかもしれません。
雌花と雄花の熟期は、微妙に異なるように感じました。植物にはよくあることですが、雄性先熟や雌性先熟というワザを使って、近交弱勢を避ける工夫があるのだと思います。上の写真は、受精に成功して実が膨らみ始めたタイミングを撮影したものです。
オニグルミの学名は、Juglans mandshurica var. sachalinensisです。学名の通り、東アジアの大陸に原生するマンシュウグルミのサハリン州(樺太)等に産する変種がオニグルミです。5~6月に受精したオニグルミは、7~8月に果実が鈴なりにできていました。
12月は、実りの季節です。クルミの実が成熟して下に落ちていました。クルミの実は、少し複雑な構造になっています。見えている部分は、仮果(かか)と呼ばれるものです。オニグルミは、仮果が下に落ちると腐って中の核果が取れます。次に仮果の断面、核果の写真を載せています。この仮果が腐って核果が取れるのは、クルミ属の特徴の一つでもあります。
オニグルミに面白い核果になる変種があります。ヒメグルミJuglans mandshurica var. cordiformis(ジャグランス マンドシュリカ バラエティー コルディフォーミス)クルミ科クルミ属。変種名のcordiformisとは、cordatus(心臓形)+formis(形)の合成語で、ハートの形をしたという意味です。
オニグルミの実幅が3cm程度であるのに対し、ヒメグルミの実幅は小さく、2~2.5cmと小さいのです。そして、写真の通り、ハート型をしていてなんともラブリーではありませんか?殻も薄く実も取り出しやすいのです。
ヒメグルミの核果があまりにかわいいので、工作の虫がうずいてきました。ネックレス、イヤリングを作ってみました。殻を磨いてツヤを出し、ドリルで穴を開けて作成し、妻や娘、孫娘たちにプレゼントしました。
男の子たちには、ストラップを作成しました。ナチュラル派の人たちには、きっと気に入ってもらえると思います。ヒメグルミの実、自然の造形の何という妙技でしょうか?大好きな実です。
次回はクルミ科の中編、クルミ属以外の植物も見ていきたいと思います。お楽しみに。