![気になる外来種[その1] ハコベホオズキとルリハコベ](../../image-cms/header_kosugi.png)

小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
気になる外来種[その1] ハコベホオズキとルリハコベ
2025/03/18
日本に住んでいる海外の方は、300万人を超えたそうで、その規模は茨城県の人口数を越えています。そして、外来植物の中でも、日本の風土に定着している植物の数は、元来、この国に生えていた植物数に対し、20パーセントほどに達しているという調査結果があります。外来植物の多くは、地味であまり興味を引かない植物なのですが、めでたいほどにキュートな植物もあります。
こんな植物を見たことがありますか?私は、この植物が何者なのか…しばらく分かりませんでした。何科なのかさえ分かりません。英語では「Lily of the valley vine(ツルスズラン)」や「Pampas Lily of the Valley(パンパス スズラン)」と呼ばれるそうなのでどこに生えているか、あたりを付けて調べると素性が分かりました。
これがこの植物の生態写真です。1株1株が個別に生えている様子を見たことがなく、通常は群がって生えています。開花を観察したのは、11月です。原生地では、食用や蜜源植物にされているとの情報もありますが、定かではありません。この様子、花をみなければハコベ(繁縷)に似ています。
ハコベホウズキ
ハコベホウズキSalpichroa origanifolia(サルピクロア オリガニフォリア)ナス科ハコベホウズキ属。なんとこれ、ナス科に分類されています。属名のSalpichroaとは、ギリシャ語で「salpe(ラッパ)」と「chroa(色合い)」の合成語で、花の形状を表すのだと思います。種形容語のoriganifoliaとは、オレガノの葉という意味です。確かにハコベホウズキの葉は、ハナハッカ属のオレガノの葉に似ています。
パーツのサイズ感はこんな感じ。花の大きさは1cmくらいで、スズランのようなつぼ形をしています。ハコベホウズキの起源は、地球の裏側にあるエクアドル、ペルー、ボリビア、アルゼンチンなど南アメリカの国々です。その釣り鐘状の白くかわいい花姿から観賞用や探求心のために原生地から持ち出し、世界各地で広がっているようです。詳しいことは不明ですが、日本へは植物園が持ち込んだとされています。
ハコベホオズキは、冬になると地上部を枯らすので一年草のようにみえますが、地下茎を持ち、根から再生する能力を持つ多年草です。成長が早く、茎は1mほどに伸びます。花は、葉腋(ようえき)に一つずつ下向きに咲かせます。果実を付け、種子でも地下茎でも旺盛に増えるため、観賞用として導入した国でも庭などから逃げ出し、雑草化しています。
このハコベホウズキは、主に関東の臨海部で見られるとのことですが、その理由は、詳しく分かっていません。私は伊豆半島の海岸部で、これらの撮影をしました。
次は、「ルリハコベ(瑠璃繁縷)」というミステリアスな和名がついた外来種です。
ルリハコベ
ルリハコベAnagallis foemina(アナガリス フォエミナ)サクラソウ科ルリハコベ属。属名のAnagallisとは、ギリシャ語のana(再び)+agallein(楽しむ)の合成語です。それは、曇りのときに花を閉じ、日の光が差すと再び花開くことに由来します。種形容語のfoeminaとは、ラテン語で「女性」を意味しています。命名者は、この優雅な姿が女性的だと感じ取ったのでしょう。
ルリハコベは、ハコベホウズキと同じようになぜか臨海部で繁殖しています。その姿はいかにも道端や畑に生えるナデシコ科ハコベ属のように、株が地をはって四方に広がり、小さな三角形の葉を対生させています。他の種(しゅ)と違っている点は、魅力的な瑠璃色の花を付けることです。
ルリハコベは、ハコベと縁もゆかりもありませんが「瑠璃繁縷」という和名は、なるほどと思えるほどすてきな名前です。花は1cmに満たない大きさながら、なんとも言えない見事に美しい瑠璃色です。中心部の赤さが、その色合いを際立たせているのだと思います。草丈は低く10cmほど、茎は四方に伸び、その茎断面は四角形をしています。花期は春、3~5月に葉腋から花柄を伸ばし花を咲かせます。
ルリハコベは、種子で世代交代する一年草です。元々の原生地は、イタリア、フランス、スペイン、ポルトガルなどの南ヨーロッパが中心とされていますが、中央ヨーロッパ、南北アメリカ、東アジアにも帰化しています。
日本での来歴は不明なのですが、ヨーロッパの種苗会社では種子が販売されていることから、園芸用として導入されたのだと思います。園芸種として現在も「アナガリス」の一般名で流通しています。分布範囲は、紀伊半島以西とされていますが、特に暖地を好み、沖縄の海岸付近の畑地等に多く見られます。
最後に、学名について補足します。今回、ルリハコベのことをAnagallis foeminaと紹介してきました。しかし、近年この植物は、DNAの塩基配列を比較する現代分子分類体系によって、Lysimachia(オカトラノオ)属に移されLysimachia foemina(リシマキア フォエミナ)と変更されました。まさしく、この花の形状は、リシマキアのそれだと思いました。
引き続き、次回は「気になる外来種[その2] ハゼランとタマザキクサフジ」のお話です。お楽しみに。