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春は里から、秋は山から [前編] リンドウ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

春は里から、秋は山から [前編] リンドウ

2015/10/16

夏休みも終盤になると高原から子ども達の歓声が消え、妙に静まり返ります。夏の花々もさっさと店じまいをする頃、エゾリンドウなどが花を咲かせます。春は里から始まりますが、秋は山からやって来ます。

高原の草原や湿地に生えるリンドウ類の透き通るようなゲンチアナ・ブルーを見ると、ちょっぴりブルーでセンチメンタルな気分になるのはなぜでしょう。あの群青色の花色はリンドウならではもの、他に代わる花の名前を挙げることは私には難しいのです。

リンドウという名前は、竜胆(りゅうたん)という生薬名に由来します。リンドウの花が咲き終わったら掘り取り、天日で乾燥させます。その匂いはいかにも薬臭く、かじると苦く、唾液や胃液の分泌を促進して、胃での消化を助ける効能が確かにありそうです。熊の胆より苦いので、竜の胆という意味でしょうか。

このことは世界的に知られていて、古代ヨーロッパのゲンチュウス王が発見したとされ、リンドウ属のことを学名でGentiana(ゲンチアナ)といいます。そんなリンドウですが、その実態はあまり知られていません。

世界では数百種、日本にも10種類以上あるリンドウのいくつかを、エピソードと共にご紹介したいと思います。

開花後に掘り取り、洗うとリンドウの根が出てきます。少し太い根茎に黄色いヒゲ根がついています。同じリンドウ科のトルコギキョウの根とそっくりです。かじると初めは何の味もしません。5秒後強い苦味を感じました。「良薬口に苦し」の苦味です。たくさん食べてはいけない物とも感じます。なお、味見したリンドウは栽培品なのでご安心を。

秋になると切花用リンドウが出回りますが、それらはこのエゾリンドウから作られた園芸品種か、その血筋を引いています。恐らくリンドウを切花品種化した国は、日本が初めてでしょう。エゾリンドウ リンドウ科ゲンチアナ属Gentiana triflora var. japonica(トリフローラ ヤポニカ)は、近畿地方から北海道に生える日本特産の多年草です。秋になるとまっ青な花を茎の先端と葉腋に咲かせ、大きな株になると100cm程度の草丈になる、リンドウの王様です。

群落を見回すと、赤軸濃色、青軸薄色など変異があり、生まれつきの切花フォーメーション持っています。しかし、エゾリンドウは恥ずかしがり屋さんで、花を大きく開きたがらないのです。そのために、花をよく開くよう改良が行われています。

エゾリンドウは日当たりのよい草原や湿地に生え、周りに秋の訪れを伝えます。マルハナバチは忙しそうにリンドウの花にもぐり、蜜を集めていました。

オヤマリンドウ リンドウ科ゲンチアナ属Gentiana makinoi。種形容語makinoiは自らを植物の精と称した、牧野富太郎先生に因みます。それは日本にしかないリンドウで、中部地方以北の高原の草原や湿原に生える多年草です。草丈は40~50cm程度、濃い紫色をして、細長くすぼまったような花を咲かせます。

オヤマリンドウの花は、主に花は茎の先端部に集まって咲きます。エゾリンドウと同じ場所に生えますが、全体に細く小柄で、色濃いので区別は容易にできます。

リンドウ リンドウ科ゲンチアナ属Gentiana scabra var. buergeri。本家本元のリンドウです。昔は、畑の畦や土手に生えていたそうです。『牧野新日本植物図鑑』を見るとリンドウは、「本州、四国、九州の山野に普通に見られる多年草」という解説がされていますが、今では都市近郊において、幻の花といっても過言ではありません。

リンドウは、花がよく開きわい性です。園芸店で見られる鉢植えのリンドウは、このリンドウの改良種となっています。リンドウは大家族なのです。次回は、ちょっと変わったリンドウのお話です。

後編に続きます。

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