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どんぐり ころころ[その9] シラカシとアラカシ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

どんぐり ころころ[その9] シラカシとアラカシ

2020/12/01

ブナ科の落葉性樹木と、どんぐりの紹介は終わりました。これからは、同じ温帯であっても、より暖かい暖温帯(照葉樹林帯)といわれる地域に生える常緑広葉樹と、そのどんぐりを紹介していきます。

通称として、落葉性のコナラQuercus属の木々をナラ(楢)といいます。常緑性のコナラQuercus属などはカシ(樫)と呼びます。カシという名詞は、その材が堅く強靱(きょうじん)なことから付けられたのですが、単にカシ(樫)という名称の植物はありません。

シラカシQuercus myrsinifolia(クエルクス ミルシニフォリア)ブナ科コナラ属は、樹高20mにも成長する高木であり日本の東北南部を北限に東アジア東部~インドシナ半島などの丘陵地、低山に生息するアジアの植物です。照葉樹林帯の主要な植物であり、関東では最も目にすることが多いカシです。

シラカシの種形容語のmyrsinifoliaは、サクラソウ科ツルマンリョウMyrsine属のような細長い葉をしていることを意味します。 日本ではツルマンリョウ属にはタイミンタチバナなどがあります。シラカシの葉には、写真のようなツヤがあり美しいので植木としてよく使われます。

シラカシは単幹で、樹皮は滑らかな灰色をしています。あまり横に広がらず真っすぐに育ちます。木へんに堅いと書いて樫というように、シラカシは日本産の木材の中で、堅く強靱な木部を形成する樹種です。

江戸時代から伝わる槍(やり)を取材しました。槍頭(そうとう)25cm、柄(つか)250cm、石突(いしづき)10cmほどの長い武器です。槍は、人類最古の狩猟用具、そして武器の一つです。持ってみると意外と軽く、獲物や相手との距離があるので実戦において恐怖心におじけづかない武器であったと思います。

私が槍を見たかったのは、その柄が何でできているのか知りたかったからです。私の見立てはカシでした。シラカシの材は、命懸けの強度が求められる場合、カシ類の中でも最も強靱さを誇るとされています。木刀もシラカシでできたものが最高級品です。

シラカシは、春5月上旬に花を咲かせます。風媒花でありたくさんの雄花が付きます。それは、風に揺れるように下垂しています。この方式が花粉を飛ばすのに都合がよいのでしょう。雌花は新梢の先にあります。シラカシは雄花が先に花粉を飛ばした後に成熟してきます。

5月中旬、シラカシの赤い若葉です。 葉緑体の準備が整っていなくても太陽光線は当たります。有害な紫外線や活性酸素を除去する機能を、このアントシアン色素が担います。新梢の所々に直立しているのが先ほど述べた雌花の花序です。シラカシは果軸が長いのでどんぐりをたくさん付けます。

シラカシのどんぐりは、花を咲かせたその年に実がなる1年成。それは多産であり不成りの年がないほど、いつでもたくさんのどんぐりを実らせます。秋になりこの木の下にいると、雨のようにどんぐりが降ってくるようです。どんぐりは縦長で大きさは1.5~2cmほど最もよく目にするどんぐりです。殻斗は、輪紋状(横しま)で薄く壊れやすいのが特徴です。

シラカシに近縁で、ともによく目にするのがアラカシです。

アラカシQuercus glauca(クエルクス グラウカ)ブナ科コナラ属。シラカシとほぼ同じように日本の東北南部を北限に東アジア~インドシナ半島、インド、パキスタン周辺の山野に分布し照葉樹林帯の主な構成樹とされます。

アラカシの種形容語のglaucaは、白粉をかぶったような、青灰色のろう粉をかぶったようなという意味です。それは、アラカシの葉裏がろう質に薄く覆われているからです。アラカシの葉は丸く楕円(だえん)形をしていて、中央から先に粗い鋸歯があります。

私が観察しているアラカシの木には4月上旬に花が咲きました。先ほどのシラカシは5月上旬の開花でした。アラカシはシラカシに比べ春早くから花を咲かせます。

アラカシとシラカシは、よく似ていますが、違いは明らかにあります。細葉で鋸歯が葉のほとんどに付くシラカシに対し、アラカシの葉は幅広で卵形、鋸歯は葉の半分から先に付きます。

サイドバイサイドで比較します。左の写真が典型的なシラカシ。右の写真が同じように典型的なアラカシです。殻斗は同じような輪紋状なので区別が難しいのですが、シラカシのどんぐりは細長でスリムなのに対し、アラカシのどんぐりはふっくらしていてグラマラスなのです。典型的と繰り返し述べたのは、両方の中間的な個体があるからです。

シラカシとアラカシの違いは分かりましたでしょうか? この二つの樹木は、暖温帯の林や里山、近くの公園にたくさん植わっていて、どんぐりをたくさん付けます。私は、この2種の違いが分かっただけで、ナチュラリストや森林インストラクターの仲間入りができたような気がしました。読者の皆さんも確認してみてください。

次回は「どんぐり ころころ[その10]」です。お楽しみに。

JADMA

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