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どんぐり ころころ[その11] オキナワウラジロガシ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

どんぐり ころころ[その11] オキナワウラジロガシ

2020/12/15

日本の気候区分では、奄美大島から南の南西諸島は亜熱帯になっています。そこは、年平均気温は18℃以上の多雨地帯。常緑のブナ科カシ類は、亜熱帯、熱帯に分布の中心があり、驚くほど多様などんぐりがあります。日本は、ブナ科常緑カシ類の北限の地にあります。 今回紹介するオキナワウラジロガシは、日本の亜熱帯域に特産し特大のどんぐりを付けます。それは、どんぐり愛好家なら手に入れておきたい一品なのです。

残念ですが、沖縄の首里城は火災によって焼け崩れてしまいました。それは、過去にも戦火によって消失した歴史を持つ建物です。

世界遺産、今帰仁(なきじん)城跡、城壁長さ1.5kmの石組み。沖縄北部の山城跡です

20年前に世界遺産に登録された「琉球王国のグスク及び関連遺産群」は、その石垣などの遺構に価値が認められたものです。首里城がなくなっても世界遺産の価値がなくなったわけではないのです。

今回紹介するオキナワウラジロガシは、カシ類が持つ強靭(きょうじん)さから首里城の梁(はり)、守礼門の柱などに建築用材に使われてきました。これから再建される首里城にもオキナワウラジロガシが使われると聞きます。過去にもこの木は、建造物のために伐採されてきたために、人の入れない深い森にしかその原生は残っていません。

オキナワウラジロガシQuercus miyagii(クエルクス ミヤギイ)ブナ科コナラ属。種形容語のmiyagiiは、沖縄の国頭(くにがみ)農学校校長であった宮城鉄夫氏に献名されています。先ほど述べましたが、このカシは、奄美大島以南の南西諸島の固有種。沢筋など暖かく湿った原生林に生息しています。

奄美大島の小高い山にある金作原(きんさくばる)の原生林です。奄美大島のほぼ中央に位置する、小高い山に手付かずのジャングルが残っています。

見事な板根を付けたオキナワウラジロガシです。一見サキシマスオウの木ような根でした。足元に裏白の葉が落ちていたので存在を確認しましたが、どんぐりは落ちていませんでした。この木は、実を多産しない樹種です。

オキナワウラジロガシは常緑の高木で25mほどに成長します。葉の長さは10cm程度と大きいことを除けばウラジロガシによく似ています。

奄美大島大和村役場の裏には、国指定の天然記念物大和浜のオキナワウラジロガシ林があります。ここは、昔から村人が聖域として守ってきた神様の森です。故に、開発や伐採を免れたのです。

奄美大島の原生林入り口には、このような棒が置いてあります。杖にしては細いこの棒は、何に使うのでしょうか? それは、ハブよけです。ハブは森の守り神です。人がうかつに森に入らないように、自然を壊さないようにする役割を持っているという人もいます。

大和浜の自生地は、急な傾斜地でした。落ち葉の様子でオキナワウラジロガシの存在が分かります。途中、小川が流れているような湿った場所です。森の規模は小さく、肩身が狭い様子。ひしめきあって生き長らえているように見えます。

それでも、この自生地には、子どもの木もありました。それは20~30年でどんぐりを付けるようになります。成熟した大木は、金作原原生林と同じように大きな板根を作り斜面の岩地にへばり付いています。

板根の足元には、オキナワウラジロガシの殻斗がたくさん散らばっています。しかし、果実はほとんどなく、食べ散らかされている様子です。おそらくそれは、リュウキュウイノシシ(Sus scrofa riukiuanus)の仕業に違いありません。

動物の食べ残したオキナワウラジロガシです。大きいどんぐりを付けるのは、ジャングルの生存競争に適合した結果です。どんぐりの芽生は大きなエネルギー貯蔵装置からの栄養補給を受けて速やかに大きくなることができたのです。昔は、オキナワウラジロガシのどんぐりはブタの飼料に利用していたと聞きます。それほど昔はこの地域に普遍的に生えていたのでしょう。

日本最大のオキナワウラジロガシのどんぐりを並べてみました。一番大きなもので幅3cm、長さ4.5cm、重さ17gほどです。殻斗は浅く広い、輪紋状~鱗片状までさまざまな模様があります。このどんぐりは、大きな栄養の入れ物を獲得したのですが、重量が重いために、種(タネ)の拡散を重力散布と水の流れに任せるようになったので、広範囲に分布を広げることができません。自然林に限定的に生えるオキナワウラジロガシは、伐採や生息環境の喪失によって希少な種になってしまったのでした。

次回は「どんぐり ころころ[その12] アカガシとアオガシ」です。お楽しみに。

JADMA

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