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「フォーチュンベゴニア(R)」[その3]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

「フォーチュンベゴニア(R)」[その3]

2022/09/20

南米アンデスの山中に生息するさまざまな球根ベゴニアの原種たちのことは、よく分かったと思います。園芸種である「フォーチュンベゴニア」は、形態こそ現代風に変化をしていますが、生理生態は原種たちと大きく変わりません。その3は「フォーチュンベゴニア」の生育特性と開花生理などについての知見です。

1. 温度条件

「フォーチュンベゴニア」は、亜高山植物の原種たちから改良されたので、意外と寒さには強いです。セーターを着たくなるような温度とされる10~15℃は大好きな温度で「フォーチュンベゴニア」の美しさが際立ち、花持ちがよくなります。生育適温は10~25℃だと思います。この温度帯では目覚ましい生育をします。生育できる低温限界は5℃です。3℃を下回り凍結すると枯死します。生育の高温上限は30℃くらいです。35℃以上になると著しく生育不良となりやがて枯れます。「フォーチュンベゴニア」は10~25℃の温度帯で楽しみたい植物です。

2.光条件

もともと雲霧林(うんむりん)といわれる、霧の出る山岳地帯に夏の強烈な直射日光が遮られる環境で生育していました。そのため、7~9月上旬の直射日光に弱いのです。経験的に10万ルクス(照度の単位)を超える光があると葉がやけどします。その時期は半日陰に置くか、50%程度の遮光をすることになります。しかし、9月上旬を過ぎると光エネルギーは減衰します。9月上旬以降は、日の光は気にしなくても大丈夫です。秋は、明るい場所の方が生育良好です。

3. 生育特性

野生種が生育している環境は、湿度がある場所です。それは木々もまばらな岩場、斜面、崖でした。岩場や崖には耕土がありません。岩の上に、浅く広く横に根を張ります。「フォーチュンベゴニア」は根が深く張らないので、深鉢を使う必要はありません。根鉢は崩さずコンテナや花壇に植えます。崖を背にして生育するので、葉や花の出る方向が崖と反対側です。なので「フォーチュンベゴニア」には明確な方向性があり、正面と裏面があります。葉の先端が向くのと同じ方向に花が向くのです。これをよく理解しましょう。

4. 開花習性

①原種たちは一日の昼の長さが夜の長さよりも長いとされる夏の長日(ちょうじつ)期の開花期を迎え、秋の短日(たんじつ)期に塊茎(かいけい)を作り、休眠する宿根草です。「フォーチュンベゴニア」も日長(にっちょう)がおよそ12時間以上で開花し、12時間以下で休眠する開花習性を持っています。

11月下旬「フォーチュンベゴニア」はまだ開花の盛りですが、他の品種は11月の早々に開花しなくなります。

②多くの球根ベゴニアは、厳格な長日開花性、短日休眠性を示します。ところがです。「フォーチュンベゴニア」は短日感応が鈍く、短日期でも他のどの品種より、ある程度開花を続けるのです。このことは、私が独自に観察から見抜いた非常に重要な特性です。これによって秋も「フォーチュンベゴニア」は楽しめるのです。

5. 塊茎を形成し、休眠する

日暮れが早まる12月中旬。「フォーチュンベゴニア」は本当によく咲いてくれました。「フォーチュンベゴニア」は、このころになると地上部の栄養を地下部に転流させ、塊茎を形成し休眠に入ります。堀り上げて、球根だけ新聞紙に包み、凍らない場所で保管しても構いません。雨の当たらない場所であれば、鉢に植えたまま土を乾かして保管してもよいでしょう。

6. 塊茎の催芽条件

球根の保存は乾燥した状態で大丈夫です。凍らない程度の低温、5~10℃くらいで保管します。春に乾いた状態の塊茎は、20℃の温度で休眠から覚醒して芽を出します。芽が出たら、ポット等に塊茎の表面が出るくらいの深さで浅植えにします。植え付けたら、水と肥料を適宜与えます。

7. 多回結実性(宿根性)

塊茎から芽を伸ばした「フォーチュンベゴニア」は、梅雨で順調に生育し開花します。この植物はもともと霧の林で生育していたので、雨に打たれるのが好きです。花に水がかかることを嫌いません。梅雨が明け、強い日差しが届くようになったら置き場所は日陰にします。夏の暑さを無事に乗り越えることができたら、再び秋に花を咲かせることも可能です。4年にわたり一つの株を維持したことがありますが、けっこう大変でした。秋に1度目、翌年の梅雨が明けた初夏に2度目の花が楽しめたことを感謝して終わりにしてもよいと思います。2年目の秋には、新しい苗に更新することをおすすめします。

8. ドワーフコンパクトでよく咲く性質

実は手ごろなベゴニアの園芸品種が「フォーチュンベゴニア」以外にもいくつかあります。ドワーフコンパクトは、草丈が低いままコンパクトに育つという意味です。特に「フォーチュンベゴニア」は、他のどの品種よりコンパクトでよく咲く性質を持っています。

9. 輸送性(transportability)

「フォーチュンベゴニア」の花茎が、短いのも大きな特長の一つです。葉の上に花が乗るような咲き方をします。それ故に、産地から小売店等への輸送性に優れます。お客様が店頭で購入されて家に持ち帰るときも、花首が短いとより傷みが少ないと思います。

10. 品種のバリエーション

①「フォーチュンベゴニア」には12色ほどのバリエーションがありますが、日本のマーケットに合うものを7品種に絞りました。その中でも特におすすめなのが上の写真の3つです。「スカーレット」は最も大きな花を咲かせ立派です。「ホワイト」は一番丈夫で株張りがよいです。「ピンク」は一番多く花を咲かせます。

②次におすすめなのが上の写真の4品種です。「ゴールデン ウィズレッドバック」は、がく片が赤くなり、おしゃれな色合いで多花性です。「イエロー」は大きな花を付けます。「オレンジ」は色幅がありますが、よく花を咲かせます。「ディープレッド」は、コンパクトで葉が黒いので葉色も楽しめます。

「フォーチュンベゴニア」をその1~3まで説明してきましたが、まだ説明しておきたいことがたくさんあります。

次回、「‘フォーチュンベゴニア(R)’[その4]」では「フォーチュンベゴニア」の植栽実例、さらに長く楽しむコツをお知らせします。お楽しみに。

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